第三の門番.17
「ライハ!!全方向に一斉電撃!! アウソさんは出来る限り大量に海水を放出!! ネコ!オレにも魔力繋げてくれ!情報を渡す!!」
『うん、わかったよ!』
ニックの指示に従いアウソの海水と共に雷を放出する。
気分はポケ●ン。
『ギャアァアアアアアアーーーッッ!!、!!!』
凄まじい光が海水と共に空間を掻き回す。
塩の結晶と鏡の所為か更に光の乱反射が酷い。だが、光の類いが苦手な影には効果は抜群だったようで、ピエロが悲鳴をあげ、影は掻き消え、あっという間に元の景色へと戻った。
「…え?」
あまりにもあっさりと終わったので、罠かと思い確認したが、本当にいない。
気配すらない。
「え??」
とんでもない肩透かしを食らい呆然としていたら、シラギクがわたわたしながらやって来た。
「ニ、ニックさん、お加減は?あの、それよりもその右目は大丈夫なのですか?」
「そうだ。色おかしくなってんぞ」
と、ちらりとシラギクを見てしまう。
お前も含め。
「俺のこれは問題ない。むしろより色んな物が広範囲で“視え”やすくなった」
ニヤリと再び悪い笑み。
「俺なんかよりもお前らは自分の心配してろ。ライハはともかく」
「オレの扱い雑」
「今絶好調だろ?シラギクは魔力解放までして、大丈夫なわけあるか」
「私は大丈夫ですー」
とかシラギクは言ってるが、やはり負担掛かってたのか。
「無理はしないでください」
「あはは、善処します」
苦笑している。無理はきっとするんだろうな。
何とかして負担とやらを軽くしてやりたいけど。
そんなオレ達の軽口を言い合う様子を見て、皆もホッとした顔をしていた。特にアレックスはずっと顔が強張っていたのが取れていた。
「さて!無駄話はここまでだ! 奴が来るぞ、俺が“視て”この鏡迷宮を案内してやる。急ぐぞ!!」
重い音、高い音、唸る音。その全ての音がごちゃ混ぜになった不協和音が近付いてくる。それに伴って空間全体が激しく震動し、下方の飛び込んできた側の鏡が黒ずんだ。
『 魔力を返せぇえええええええええ!!!!! 』
鏡を突き破って巨大な手が伸びる。
次いで、間接部分が解れ、黒い根が収まりきれずにはみ出たピエロ本体が姿を表した。
「ははは!もう鏡に潜る力もねーのか!ザマーミロ!!」
中指立ててニックが楽しそうに煽る。
「鏡潜るのも魔力いるんだな」
「全ての魔力を彼処に依存してたっぽいからな。お前らが吸い取ってくれたお陰でやり易い。体動かなかったが全部“視え”てたから、内心爆笑してたぞ」
「ははは、そりゃあ良かった」
「ま、もう形振り構ってられないだろーから、お前のことどうやってでも捕まえようとするだろうな」
「まじかー」
ピエロの腕が大きく振りかぶった。
でも、要は逃げ切れれば勝ちってのは変わらない。
魔力をネコに回す。
『いっくぞー!!』
ネコが羽ばたく。
たったひとつ羽ばたいただけであり得ないほど加速し、ピエロの腕が盛大に空振る。
ネコさんや。
君、翼の周りに風の魔法を展開してますね。
いつそんな技術を身に付けたのか。恐ろしい相棒だ。
その風圧に耐えられるように、ニックが結界を展開させていた。
「…というわけで、まだまだお前らに余計な負担を掛けることになるが、正直お前らが頼みの綱だ。キツいだろうが頑張ってくれ」
らしくなくニックが申し訳なさそうに言う。
槍でも降りそうだ。
「ま、お互い様ってことで」
こっちとしては魔力を美味しく大量に戴けたから儲けだった。
『ことでー!』
ぐるんと視界が回って、正面の鏡にシラギクが穿った穴に飛び込んだ。