第三の門番.12
『おっひゃー!? これはたまげた!大たまげだ!! まさかまさか仲間一匹追ってもう戻れない奥底までやってくるとは!』
愉快だとばかりにピエロは躍り笑う。
「ニックを返してもらいます!!」
シラギクの言葉にニチャリと歪んだ笑みを浮かべる。
『ムリムリムリムリもうムリさー!見て解んない?アイツはもうおいらのもんさ!あの右目を見てごらんよ、あそこからジワジワ少しずつ“スイキョウ”になってって、最終的にスイキョウになる!いわゆる世代交代だよ!』
ピエロの背中からおぞましい根が生えて、ニックの右目へと続いている。
その時。
「…」
ニックが僅かに指先を動かした。
まだ生きてる!!
「…ライハ…」
トントン。と、静かに肩を叩かれた。キリコである。
「ねぇ、アレ、あんたにはどう見える?」
どう、とは?
「どういうことですか?」
「あの子、目を貫かれている様に見えるけど、一切血の臭いがしないの」
確かにそうだ。
じゃあアレはなんだ?粒子と魔力の目では魔力の流れしか見えないが。…見えたままの物体が存在しない?
『……うーん、うん。血の臭いしないね』
ネコのお墨付き。
「でも魔力の臭いは凄いのよね。しかも悪い方の魔力の臭いはどんどんあの子に流れていっている。普通なら、諦めるところだけど…」
間が空く。
キリコさんを見ると、針と短剣を取り出していた。
「あんたのその呪いがあれば、なんとかなるんじゃない?」
ニヤリと笑うキリコを見て、思わず口角が上がった。
そうだよな、諦めるにはまだ早い。
「ネコ、繋げてくれ」
『! わかった。まかせて』
ネコの尾を繋いで、ニックの現状とこれからやろうとする事を伝える。シラギクがこちらを向く。
「本当ですか?」
「ああ」
頷けば、目に光が戻った。
「ライハさん。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ピエロが頭がもげそうなほど捻っていき、ぼるんと一気に元に戻る。
『作戦会議は終わったかい?どっちにせよ、君らが終わりなのは何も変わりはしないと思うけど──』
床からボコボコと黒い泡が沸き立つ。
『さぁ!遊ぼうか!!』
そこかしこから影人形が這い出してくる。10や20どころじゃない。瞬く間に百を越える数が襲ってきた。だが、それらは煌々と輝く火の玉によって吹っ飛ばされ、スイキョウの仮面へと当たってひっくり返った。
「そうは問屋が卸さないんだぞ!!」
アレックスの魔法だ。
スイキョウはグルンと一回転、股の間に顔を覗かせて、ニヤニヤしながら立ち上がった。
『そうこなくっちゃ』
くるんとピエロの目が上を向く。
すぐ眼前には白い刀を振りかぶったシラギク。
「ふっ!!」
迫る刃とピエロの間に瞬時に二枚の鏡が割って入るも、シラギクの白い刀はバターを切るようにして鏡を真っ二つにした。しかし既にそこにはピエロの姿はなく。
「後ろだ!!」
ユイの声にシラギクは振り返ることなく、膝を曲げて上体をこれでもかというほど反らした。
シラギクの胸すれすれをピエロの蹴りが通過する。
『ヒョッ!』
変な声をあげてピエロは喜びの声をあげた。
次の瞬間、ズバンという音を立てて、ピエロの胴が上下に切断された。ユイの攻撃だ。
だが、煙を凪いだだけという風にピエロの胴はすぐさま元に戻り、側転しながらケタケタ笑う。
『物理攻撃は効かないよーん』
ベロベロバー。
そんな感じでピエロの仮面が舌を出してバカにするが、それに対してシラギクも笑った。
「そんな事百も承知です」
『?』
なんだ?と、ピエロが舌を出しながら首を捻ったとき、ニックの拘束されている場所から凄まじい光の刃が轟音を伴い飛び出した。
そこでようやく、ピエロはまんまと陽動に引っ掛かった事に気づき、顔に焦りの表情が浮かんだ。
『まって!!まって!!そんなチームプレーなんてずるいぞう!!』
ピエロが叫ぶ。
だが、既に時は遅し、だ。




