第三の門番.6
影が、先程のピエロの様にずるりと次々に潜り出てくる。もっとも、影はさらに深くなり、色を認識することも困難だったが。
「まずいっ!」
ともあれ、十数枚の鏡から影が這い出てきたのだ。各々武器を手にしてこちらへと襲い掛かってくる。
影達が動き出す前に、キリコが俊敏な動きでピエロを回避して扉へと辿り着いていた。だが、キリコが扉へ触れる前に動きを止め、すぐさま大きく後ろへと跳躍してその場から回避した。キリコの居たところには剣が突き刺さっており、突き刺した影はゆらりとした動きでキリコの居場所を確認した。
ピエロは動かず、スキップをしながら部屋を回り始める。
(あれが直接襲ってくる気はないのか)
バク転も含めこちらへと戻ってきたキリコが腰の短剣を引き抜いた。
「扉は!?」
「あそこにあるのは本物じゃなかった。というより、鏡に移ったものだったわよ」
振り下ろされてきたニックの杖に似たものを、キリコが蹴り飛ばして影の額に突き刺すと霧散した。
「やっぱりそう簡単じゃないか」
『おニューのからだとは言ってたしねっ!』
ネコが尻尾を使って薙ぎ倒していく。
影自体の耐久はあまり強くはないらしい。。
人の急所を突けば容易く霧散させることができる。
だが。
「うおっ!」
何処からともなく滑り込んできた影が顎を狙って蹴りあげてきた。チッと音を立てて掠り、次いで風圧。
まともに食らってたら割れてたな。
回避と同時に繰り出していた蹴りによって影は霧散。
影は、姿をコピーした者の身体能力をある程度受け継ぐらしい。
『何言ってんのさ本物だよ、ただそれは条件がないとちゃんと開かないけどねん』
「どうだか!」
ニックの声が聞こえた瞬間、突如として視界が白く眩み、爆発した。
たったそれだけで影の半分は掻き消えた。
凄い。なにこれ。
しかも爆発したのにも関わらず、どこも焦げ臭くないし、耳も目も痛くない。
だけど、それも一瞬ですぐに鏡からわらわらと沸いてくる。
それをアレックスが韋駄天による高速移動にて辻切りならぬ辻殴り飛ばし&体当たりにて対処。なんであいつ銃使わないんだろう。
どうも撃つのに躊躇しているようだが、もしやジャムったのか?
『ライハ後ろ!!』
「!」
いつの間に後ろに!?
気配もなく接近していた影へと斎主を振る。とらえたのは3体。だが、やけに動きが俊敏な影が難なく掻い潜り、肘関節を取る。
まずい!
放電。バシンと影が消え、思わず息を吐いた。
雷は効くのか。先程氷の塊を放っても効果が無かったからまた物理のみなのかと思った。そういえば、影は魔法を放ってこない。杖らしきものを持った(恐らく)ニックの影は杖で殴るしかしない。
「うりゃあ!」
あとは分かりやすいアウソとユイの影と、忍者のようなキリコの影、そして暴走列車のように体当たりしてくるアレックスの影。
銃も魔法に属するのか。
「わっ!わっ!助けてくださーい!!」
シラギクが珍しく追い掛けられていた。
いつもなら結界で何とかする筈なのに。
その疑問はすぐに解けた。
シラギクの展開した結界を、なんと影達は素通りしたのだ。
幽霊のように。
(……跳ね返しの盾使うのやめよう)
多分だが、シラギクの結界素通りなら、オレの結界も素通りしてくるに違いない。
「あれ?」
ピエロが消えている。何処にいった?
どんなに探しても見当たらない。
というよりも影の数が多すぎて埋まっている可能性もあるが。そもそも真っ黒のネコの姿さえ見失った。
直後、影の真ん中でハンマーテールを見付けたので問題無くなった。
「数で押しきられるのも時間の問題だぞ!!どうにかならないのか!?」
どっかしらでユイが叫んだ。
まだニックの魔法によって各所的に空間ができるとはいえ、影が排出されるスピードが上がっている。確かにこのままでは影に呑まれるのも時間の問題となっていた。
シラギクと影の間に割り込んで、影を雷で消し飛ばす。
「あ、ありがとうございます!」
「どういたしまして。ところで、どう切り抜けましょう、ここ」
ピエロを探しつつシラギクに相談を持ち掛けた。
「その事なんですけど、サコネさんとウコヨさんに訊ねようと思って探しているんですが。あの、姿が見当たらなくて」
「え!」
もしかしてどこかで倒れているのか?
慌てて粒子の目で全員の居場所を確認したところ、広場の中心にて座り込んでいる姿を発見した。
幸いにも襲われている様子もなく、むしろ無視されている。
何故だ。
「見付けました」
「本当ですか!?急ぎましょう!彼女達はこの影の対処の仕方が分かるかもしれません!」
「ああ!なる──」
ほど、と言葉を終わらせようと思ったのだが、途中であの双子の行動や言動を省みて首を捻った。
「──わかるかなぁ…」
不安しかない。
「でもなにかヒントくらいは見つかるかもしれません!」
だといいけど。
不安を抱きつつ、シラギクを援護しながら双子の元へと向かった。