第三の門番.2
合わせ鏡は封印に用いられる術の一つで、古くから悪いものを閉じ込める為の牢獄の役目を果たしていた。
例えば直進してきたモノの前と後ろに向い合わせで設置して魔力の道を作り、出られないようにするのだ。
そんな合わせ鏡が部屋をぐるりと囲むように設置されている。
オレにとっては、あ、これ前に遊園地で入ったミラーハウスだ。位にしか思わなかったが、ニックとシラギク、双子にとっては違うようであった。
「早くこの部屋を出るぞ!!急げ!!」
訳の分からないままニックの指示に従おうとして、思わず脚を止めた。
何処に出口があるんだ!?
見渡す限り鏡。天井までしっかりと鏡で塞がれている為出口らしきものは見当たらない。一体何処に行けば良いのか。
「ばか目を使うな!!こっちだ!!」
ニックが呼び掛ける。
そこで気が付いた。ニックは目をつぶっていたのだ。それなのにニックは迷いなく進む。その先には一枚の鏡、危ないと思った瞬間、ぐにゃりと鏡が押されるままに歪んでニックを呑み込んだ。
頭の中に、とある魔法映画の駅へと続く柱へと突撃する少年の姿が思い浮かんだ。
「!!!!??」
驚愕の表情を浮かべるユイの腕を掴み、ニックの後に続いて飛び込んだ。
その後ろ、誰もいなくなった筈の部屋の鏡にはいくつもの陰が残り、消えたオレ達を見詰めながら不気味に笑っていた。
潜り抜けた先には同じような空間が広がっていた。
少し進んでは広場に出て、ひとつだけ鏡を潜る。
その繰り返しを三度したころに、ニックに声をかけてみた。
「…正解じゃないところへ行ったらどうなるの?」
目をつぶったまま、ニックは一瞬こちらを向き溜め息を付いた。
「無事でいられると思うのか?」
「………いや」
思わない。だが、どうなるのか分からないから質問をしたのだ。
「…閉じ込められる。なら、まだ良い方ですね」
しかし、質問に答えたのはシラギクだった。
「正直いって、分からないのですよ。何せ、封じられた人が戻ってきたなんて話、聞かないので」
一説によると、閉じ込められた瞬間のまま時が止まるとも、永遠に続く鏡の枠を潜り続けるとも言われているが真相は不明である。というもの。
だからこそ、ニックは全神経を集中して正解を探り当てているのだ。
「私達もこの魔法盾がわりに使うんだけど、まさかこんな所に放り出されるなんて」
「今までの行いのバチが当たったんよ…」
「止めてよね、ほんとそーゆーの」
どんよりとしている双子はお互い手を繋ぎながら深い溜め息を吐いていた。
「…そういえば、ミラージュの悪魔ってなに?あのスイキョウってのがそれ?」
先程から疑問だった。
それに双子は同時にこちらを向いて言う。
「鏡の中の番人だよ。悪魔や道化師とかともいうけど」
「一番はじめに閉じ込められたモノって言われてるけど、よくわかんない!」
わかんないのかい。
『ねぇ、ライハ』
「ん?」
『さっきから不思議なんだけど、なんでネコの姿写ってないのかな?』
「え?」
思わず鏡を見れば、ネコの姿が写ってなかった。いや、ネコだけではない。
双子やヤンの姿もなく、オレとシラギクの姿も半分が透けているように見える。
なんでだ?
みんなとはぐれないようにしながらも鏡を覗き込んでいると、遥か遠くの方から魔力の渦が高速で回転しながらこちらへと突っ込んできていた。




