第二の門番.10
「キリコさん!斬撃は効かな──」
「おりゃあああーーー!!!!」
アラクネ・トスがキリコの存在に気が付いて進撃を止めようとするが、キリコは鎌状になった前肢の攻撃を避け、狙いを定めるや跳び上がる。
目標は前肢の間接部分で、そこへ向かってキリコは鉄糸を突き上げた。
ブスリ、と、そんな音を立てて鉄糸はあっさりアラクネ・トスの前肢へと突き刺さる。
『ーーーーーーー!!!!!』
声にならない悲鳴をあげるアラクネ・トスだが、キリコの攻撃はそれだけでは終わらなかった。
更に鉄糸を二本ほど刺し込むと、キリコは貫通した針を掴んでぐるんと勢いよく回転した。
それにより捻れた脚がぶちぶちと音を立てて捻りきれた。
その一連の様子を見て、思わず口に手を当ててしまっていた。
早い上にエグいし容赦ない。
しかしアラクネ・トスもそう易々とやられるはずもなく、振り落とそうと体を揺すり、別の脚で叩き落とそうとする。それを難なく回避してみせると、お返しとばかりに接近してきた脚へ鉄糸を突き立て、同様に捻り切っていた。
そんな、茹でた蟹の脚をもぐみたいに…、と久しぶりに頭が現実逃避を仕掛けた頃。
「あ、あの人ヤバイね…」
と、ユイが引き気味でそんなことを言った。
それにオレとアウソは無言で頷いた。
なんで鉄糸拾い集めてるのかと思ったら、このためだったのか…っ!
『お前!!!よくも!!!』
「っ!」
激怒したアラクネ・トスがおしりの部分の上へと向けた。その瞬間、キリコが飛び退いた。
「アウソ!!水!!」
アラクネ・トスが糸を高く打ち上げ、それが細かく分離したかと思えば、全てが鉄糸となって降ってきた。
それをすぐさまアウソが放出した海水によって阻まれる。
ギチギチと苛立つように口から音を鳴らすアラクネ・トスのすぐ下で、まるでベールを剥ぐようにして姿が見えなかった奴等が現れた。
「なんや弱点でも無いかなとコソコソと探しとったら、まさかの“突く”のが弱点とはな!!隙有りや!!」
レーニォがハルバートを思い切り振り上げた。
先の槍が糸の鎧の隙間を縫って貫通し、アラクネ・トスの腹へと突き刺さった。吹き出す体液を、すかさずラビの結界で防ぐ。
ガルネットが蜘蛛の脚を見て、少ない本数の方へと向かう。
「なんとなく打撃も効いていたっぽいからね!全力で叩くっ!!せやッッ!!」
残された脚を、ガルネットが全力でハンマーで殴り付けた瞬間、鈍い音を立てて鎧がひび割れ、体制を崩した。
なんとか立て直そうとするも、残された脚はキリコの攻撃によって少なく、体を支えきれていない。
これは、チャンスだ!!
すぐさま粘度の高い場所を確認するや、駆け出す。
「ライハ!?」
驚きの声をあげるアウソ。
確かめたいことがある。オレの視界は粒子の世界で、蜘蛛の形しか見えていない。
硬直はない。
これは、いけるはずだ!!
「ノルベルトさん!!浮かせてください!!」
「!、わかった!!」
指差した方向で察したノルベルトが魔法を発動。
アラクネ・トスの体がふわりと浮き上がる。
『やめろ!!何をする気だ!!』
焦りの声を滲ませるアラクネ・トス。
しかしどんなに脚をばたつかせても、空中に浮いた状態ではなにもできない。
「ネコ!ハンマーで彼処に叩き付けて!」
『わかったよ!!』
纏威を発動し踏み込む。
視界に浮遊する塊が映る。体の硬直は、無い!!!
「くっついてろ!!!!」
『てろ!!!』
纏威を発動した蹴りとネコハンマーによって、踏ん張って耐えることすら出来ないアラクネ・トスはぶっ飛び、アラクネ・トスすら避けていた粘度の高い場所へと落下した。
あまりの衝撃で糸が切れ、弾みで糸がアラクネ・トスへと次々にくっついた。
暴れれば暴れるだけまとわりつく糸の恐怖は、アラクネ・トス自らをもって教えてくれた。
「蜘蛛を、克服した…っ!!」
そんな中、オレは蜘蛛克服に感動の涙を流していた。
少なくとも、粒子の目発動中は怖いものなしである。勿論解除すれば話は別だが、これでもう脚を引っ張ることは無いだろう。
「急げ!!今のうちだ!!」
隣をユイが全力で駆けていく。
その後をキリコとアウソ、アレックス諸々が付いていく。そうか、今のうちに扉へと向かわないと!!
慌てて扉へ目を向けると、オレ達の攻撃やら、上から燃えた蜘蛛がぶつかった衝撃やらで半壊していた。辛うじて扉が無事なだけである。
「やっべぇ!!!」
ネコを回収し、防御に徹してヤンと空気となっていた双子を見付けると担ぎ上げる。
それぞれが扉へと走るなか、耳が何やら不審な音を拾い上げた。
ひび割れるような音だ。
蜘蛛の方を見ると、もがくことも出来ずに沈黙していた。だが、勘が危険信号を発していた。
先にユイが扉へと飛び込み、続いてアウソ、キリコ、アレックスがニックとシラギクを担いで飛び込んだ。
オレもすぐさま双子を放り投げ、背後を確認。
ノルベルト達も無事ここへと走ってきていた。
良かった。今回はなんとかみんなで先に進めそうだ。
そう思ったのがいけなかったのか、次の瞬間───
「あ…っ…?」
ノルベルトの腹に鉄糸が突き刺さっていた。




