第二の門番.8
空中で身を捻りつつ目標を見据えながら何があったのかを確認すると、どうやらいつか見た爆発する粉を撒き散らし、それに衝撃が加わった瞬間大爆発を起こしたらしい。
「…あー、厄介だな」
虫の目が爛々と輝いている。
明らかに先程の様子とは違う事から、何かの逆鱗に触れたらしい。
『みんな無事に着地したよ!!』
「アウソの膜でだいぶ緩和されたしね。オレもそろそろ着地を──」
『!? ライハ後ろ!!』
ネコの切羽詰まった声で振り返る。
すると。
「!!!!!!」
アラクネ・トスが、
大口を開けて飛び上がってきていた。
体が固まる。
呼吸が止まる。
ヤバい、殺られる。
音が遠退き、視界が狭まる。
ネコが隣で翼を広げ、オレを掴んで飛び上がろうとしているが、到底間に合わない。
何せ、アラクネ・トスとの距離は、既に一メートルも無いのだから。
だが。
視界に煌めく光。
一閃した後に、それがオレが奮った斎主なのだと気が付いた。
え?オレは振ってないぞ。
『いい加減にしろよバカ野郎」
口から滑り出した声は、オレの声だったが、明らかにオレの言葉ではなかった。
(エルファラ!?)
『エルファラ!?』
切り飛ばされた蜘蛛の牙が、回転しながら落ちていく。
悲鳴をあげるアラクネ・トスを、エルファラはオレの体を使い、身を回転させて回し蹴りを食らわせていた。
纏威を使っての蹴りは重く、蜘蛛は巣へと叩き付けられていた。
それによってノルベルト達が被害を被っていたが、オレはそれどころではない。
『先導しないといけないやつがたかが雑魚虫程度で足引っ張る奴があるか!!」
(オレだって望んでこうなってる訳じゃないよ!体が蜘蛛見た瞬間こうなるんだって!)
『そーだそーだ』
空中でエルファラと口喧嘩になっていた。
『だったらせめて解決方法でも見出だせ!!勇者もこいつを甘やかすな!!」
『ネコにとばっちりが来た!?あとユウシャじゃない!!』
そうしている間にも体は勝手に剣を構え、引っくり返ったアラクネ・トスへと追撃をしようとしていた。だが。
『クッ!』
『!!」
糸が射出された。
粘着性の高い糸だ!
『カッ!!』
ネコビームによって大部分が消滅したが、消しきれなかった分の糸が直撃した。
糸はくっついた瞬間に高質化。動きを制限された。
『ちぃ!」
続いて鉄糸が飛ばされたが、三本目で、ノルベルトとガルネットが攻撃を仕掛け、狙いが逸れた。
飛んでくる鉄糸、それをネコの尾が受け流す。
着地を果たし、糸の付いた場所をエルファラが睨む。
『アレックス!!」
「ふぁ!? な、なんだい??」
いつもと口調の違うオレに名前を呼ばれてどもるアレックス。
その手にはニックとシラギクを担いでいた。
『俺に火炎弾を威力を落として撃て!」
「ええっ…!?」
アレックスが困惑している。
そりゃそうだろう。
『糸を溶かすためだ!早くしろ!!」
「なるほど…、てか、なんかライハ怖いんだけど…」
そういえば、アレックスはエルファラ状態は知らないのか。なら仕方がない。
言われたままに火炎弾を撃ち込まれ、瞬く間に糸に引火し燃え上がった。
とても熱いのだが、エルファラは無言で溶けた糸を叩き落とした。
『…くそ、やっぱりこの体は相性が良くない。すまんが、後は自分で何とかしろ」
(ええ…!?)
突然の手助け放棄。
いや、十分助かったけれども!
『お前みたいなヘタレは粒子の目にでも頼ってなんとかしろ。ボケ」
そしてエルファラが引っ込んだ。
とたんに戻ってくる感覚。
「熱っ!!!あちあちッッ!!」
大急ぎで火を消そうとしていると、ユイが水を被せてくれた。
助かった。
「………気は済んだかい…?」
「……ああ、ありがとう…」
あとでちゃんと説明しよう。
しかし、粒子の目で、か。
やる価値は、あるか?