第二の門番.5
ユイの水で次々に流されていく蜘蛛。
「あ、そうか」
それを見て、何かを閃いたらしいアウソが、前方に海水大量生成した。
「《シガラナミ》」
海水は一瞬で長方形の形に纏まり、それが蜘蛛の群れへと突っ込んでいく。
気分的には蜘蛛の群れのなかにトラックか電車が突っ込んでいく感じ。それが三波に分かれて。
「おお…すげぇ…」
水に揉まれ、木に叩き付けられる蜘蛛。
まるで津波のようだ。
「ライハ!!雷!!」
「!、了解!!」
アウソに言われ、海水へと雷を放射。雷は海水の表面を伝って隅々まで行き渡り、水から這い上がろうとしていた蜘蛛は感電して沈んでいく。
海水が通過した所が空き、まっすぐな道ができた。
次々に枝へと着地を果たす。
後ろからは相変わらず蜘蛛からの追撃が止まず、遥か前方には、空いた包囲網を埋めようと猛スピードで蜘蛛が道を塞いでいく。
「そのまま走れ!!…海水で上手くいくか分からんが…っ」
ニックが杖の頭部分を着地した枝に叩き付けた。
「《伸びろ!!》」
魔法陣が叩き付けた箇所を中心にして広がり、青緑に輝いた瞬間、魔法陣に沿ってなんとミントらしき草が大量に生えてきた。
その瞬間、蜘蛛達が一斉に退いた。
(おや?蜘蛛ってもしやハーブ駄目なのか?)
ニックが杖をガリガリと地面に擦り付ける側からハーブが放射線状に伸びていく。
もしかしてあの羽虫もそういう系の魔法を使ったのかもしれない。
蜘蛛はどんどん遠ざかり、見えなくなっていった。
今のうちと走る速度を上げ、蜘蛛達の追撃も次第に止んでいった。
ニックの作った蔓の似せ枝のウロのなかでしばし休息。
息切れの酷いニック。
「…くそ、やっぱり創成は苦手だ。すぐ魔力が枯渇する…」
ザラキから貰ったあんなに大量に貰った魔力が枯渇するなんて、植物の創成って大変なんだな。そりゃそうか。土とか水とかの様な無機物ではなく、生き物を作っているんだからな。
と、思っていると、ニックが何かのカプセルのようなものを飲み込んだ。
「なにそれ」
「あ?ああ、そうだまだお前らに手渡してなかったな。ほれ」
ジャラジャラと5個の煌めく宝石のようなカプセルが入った小瓶を手渡された。
「南の仙人から受け取った魔力を結晶化させておいた。安心しろ、枯渇っていっても俺個人の魔力だ。預かったのは全て此処にある」
「ありがとう」
受けとる。
いつの間にこんなの作ったのか。
「何時なんどき俺が居なくなるか分からんからな。これさえ飲んどけば傷の回復も早い。あと、そこのレーニォの弟。来い」
「?」
ラビがなんだと近付けば頭を軽く叩かれた。
「いてっ!」
「お前は死ぬつもりなのか?生命維持がギリギリの枯渇状態で魔法を使いやがって。魔力の流れを正してやる。背中を向けろ」
「………うす」
ラビが素直に魔力補充と治療を受けた。
すると、ぐちゃぐちゃだった魔力の流れが少しは改善されたらしく、手を開閉して驚いていた。
「動きやすくなったろ?無理すんな」
「…ありがとうございます」
「あと、ライハ!」
「はい」
なんだろうか。
「お前も補充しとけ。さっきから結界張りすぎだ」
「え?」
そんなことしていた覚えはないが。
「無自覚か?それとも中のエルファラか知らんが、廊下の罠を全部弾いてたぞ」
「…そうなのか」
知らなかった。道理でニックとシラギクがキョロキョロしていると思った。
『あー、あれエルファラだったの?やるじゃん』
「知ってたの?」
『うん』
警戒よろしくっては言ったが、まさか警告ではなく直接手を出していたとは。だんだんエルファラの自由度が上がっていってるな。
「そういや、ノルベルトさん。腕、大丈夫ですか?」
「……ぁ、ああ。だいじ──」
「ノル。痩せ我慢は良くない」
「大丈夫とは言えない…」
ガルネットに怒られてノルベルトが素直に白状する。
腕を見て、思わず「うわ」と声を上げかけた。
刺された箇所から、白い糸のような物が腕を蜘蛛の巣状に伸びていっていた。
「痛みますか?」
シラギクが恐る恐る問い掛ける。
「糸の張った箇所が動かせなくなってきている。腕に針を細かく通されている様な痛みだ」
「取れないんだよこれ。完全に埋まってて」
「燃やそうか?」
銃を構えるアレックス。
「止めろ」
ガチトーンで諫めるガルネット。
「呪いとかだと、外せるんだが」
試してみたが、呪いの類いではなかったらしく何の変化もなかった。
ついでに言えば、痛み止も効果が薄い。
「…………。扉は巣の真ん中って言ってましたよね。出れば治りますかね?」
「さてな…。そればかりは分からん」
シラギクの僅かな希望にニックの厳しい意見。
しばし、言葉が詰まる。
「…わかった。俺から提案がある。いいか?」
その静寂を、ノルベルトが破った。