第二の門番.4
言葉を被せられたが、まぁいいか。
怒っていることは伝わっただろう。
(だけど…)
ウコヨとサコネを見る。
茫然自失だ。此処にいたとき、あの二人にとってウロは師匠であり、育ての親も同然の存在だったときいた。それが、簡単に切り捨てるつもりだったのだと言われれば、ああなるのも仕方がない。
(だけど、それは本当だったのかもしれない)
久しぶりに再会したウロは、オレの知っているウロさんではなかった。
何処か機械じみた気配。歪な魔力、そして、神の反応からしてもしかすると全て、双子を利用することも含めて計画をしていたのかもしれないと思う。
無茶をして激怒するウロ。双子に微笑みかけるウロ。オレの記憶にあるウロはどれも人間のようだった。もちろん素顔は見えてないし、謎が多く、正直性別も不明だったけれど。あれが全て嘘で紛い物だったなんて、あまりにも悲しくないだろうか?
「…っ」
ザザ…、と頭のなかにかつて見たエルファラの記憶が甦る。そういえば、あのなかにウロに似ている人がいなかっただろうか?
『さて、そろそろはじめようか』
ゾロゾロと這い回る音が四方八方から聴こえてくる。
粒子の目で見れば、夥しい数の蜘蛛が下の方からも上の方からもジリジリとゆっくり数を増やしつつ包囲している。一刻も早く逃げ出したい。
『このアラクネ・トスの部屋を抜ける道を教えてやろう。
一応命令されているんでね…』
第一の門番の様なことを言う。
蜘蛛、アラクネ・トスは後ろ足を少し持ち上げ、後ろを指差した。
『扉は木の中心、巣の真ん中に置いてある。
だけど、そう易々と通すわけもない。
何人か生け贄として置いていきな!!!』
アラクネ・トスの言葉で、蜘蛛達が一斉に襲い掛かってくる。
やはりそう来たか!!
「お断りなんだぞ!!」
アレックスが火炎弾を放った。
飛び掛かってきた蜘蛛がアレックスの業火に巻かれ、見えなくなる。あれまともにアラクネ・トス喰らってたけど、運良く撃退してくれていないかな?
炎に巻かれていない蜘蛛が、炭になった仲間を見て怯んだ、そして、巣が溶けている。
蜘蛛の巣って燃えるのか。
「道を作りました!!早くこちらへ!!」
シラギクが結界にて道を作る。
枝と枝の間に透明な橋のように掛かった結界に飛び乗る。
だが、突然ノルベルトが叫び声をあげた。
「ノル!!」
ガルネットがノルベルトの異変に気付く。
ノルベルトの左腕に糸が突き刺さっていた。
なんという強度。糸は腕を貫通し、貫いた先が返しになっており、引っ掛かって抜けない。
それどころか、糸が引かれてノルベルトが炎の方へと引き摺られていた。
大剣を地面に突き刺し堪えている。
そこへ近くにいたレーニォとラビが武器を用いて切断した。
やはり甲高い金属音。
あれはもう糸と思わない方がいいのかもしれない。
呻き声をあげながらも、ノルベルトが腕を押さえつつ離脱。
炎を回り込んで追いかけてくる蜘蛛。
木の上の方からも蜘蛛が飛んできて、硬質な糸を飛ばしてくる。
それらをアレックスがすぐさま撃ち落としていく。
遠距離攻撃できるアレックスいてくれて良かった。
火炎や爆風、通常弾でも大砲並みの威力のあるジャスティスは有効的で、うまく段幕を張って足止めになっている。
オレやネコもなんとか上から飛んでくる蜘蛛を叩き落としているのだが。
「……くそ、外した」
腕が強張って狙いがうまくいかない。
だが、糸に当たった雷が糸を伝って蜘蛛を感電させている。
いっそ木全体に放電した方がいいのかとも思ったが、木は抵抗があってうまく電気が走らない。
結構な数の蜘蛛を消しているのだが数が減らない。
それどころか増えているような気さえもする。
「そっちいったわよ!!」
結界を裏側から這って来た蜘蛛を蹴り飛ばしていたキリコが叫ぶ。
シラギクの方へ糸の攻撃。それを間に割って入ったガルネット、レーニォ、アウソ、ノルベルトが切断したり弾きあげている。糸とは思えぬ音が響いてる。
「回り込まれました!!」
シラギクが悲鳴の様な声をあげた。前方では無数の蜘蛛が下から這い上がり、結界の道の終着地点へと集まってきていた。
鳥肌が止まらない。
「任せとけ!!」
そこへユイがシラギクの前へと出て、刀を振るった。その動きに合わせて、突然何もなかった空間から水が湧き出し、蜘蛛の大群へと襲いかかった。