アオーソア.1
言うならば、津波だった。
大きいもので小山ほど、小さいもので木ほどの大きさだが、それがまぜこぜで絶えず押し寄せてくる。
それらを防衛軍と接触する前にザラキが精霊と組んで蹴散らし、小さく素早いためにザラキの攻撃を逃れたものをナリータが殲滅していった。
羽の生えた虫も見受けられたが、それもナリータの使い魔によって叩き落とされていた。
虫の形状が変わってきている。
前見たときは殆どが芋虫か、防御力の高い団子虫型であったが、脚が長くなってきているもの、羽の生えたもの、長くなったものと多種多様になってきている。
ゾッとした。もしやこいつら、何処かで卵を生んで繁殖しながら姿を変えているのではなかろうか?
「ザラキさん!そっちいきました!!」
「おう!」
空中でバランスを取りつつ身を捻る。
すぐさま纏威を拳に集めて振りかぶる。
「ふんっ!!」
凄まじい爆発音と共に大きく口を開けて襲い掛かってきていた羽虫が外殼が半壊し、軋む音を立てながら落下していく。
「……なかなか硬いな…」
纏威で殴って内部まで届かなかった。
地面に落下して潰れると動かなくなったが、もしあれが現れるのが早かったら、人族はもっと早くに滅ぼされていたかもしれない。
何せ、団子虫は攻撃が出来る。だが、空に逃げられたら攻撃の手段を失うものが殆どだ。戦いが無事終わったとしても…。
「…後処理が大変そうだな」
── どーーーん……
「?」
振り替える。
なんだ?何かの音が聞こえたが。
再び音がした。だが、今度は先程よりも大きく、強い。
その時、音のした方向から何かが天高く打ち上げられた。
それは大きく大きく弧を描き、真っ直ぐこちらへと突っ込んできた。
「………!?」
慌てて回避すると、への字に折れ曲がった団子虫型の魔物であった。それが地面に湧いていた虫達を押し潰して引きずった。
胴体には何かで殴られたかのような大きな窪みができていた。ザラキでさえあんなことはできない。
再び腹に響く音が聞こえ、地平線の向こうから“虫を殴り飛ばした者”が姿を現した。
形は人間であった。だが、それはあまりにも、あまりにもおおきかった。
「 もぉぉーー、邪魔!! どいてったら!! 」
肩にかついだハンマーを振りかぶり、勢いよく振り下ろした。たったそれだけで周りにいた虫達はひっくり返り、その者から逃げようとするが、その者は次々にハンマーを使い、また足を使って蹴散らしていく。
その圧倒的な力、巨大な体躯にザラキはその者が“何者か”を理解した。
ロッソ・ローデアの巨人。
「……の、女の子」
厚手の民族衣装を身に纏った、ボブカットの女の子だった。
歳はまだ成人していない頃の見た目である。だが、その背丈は15メル(15m)はあったが。
虫達は女の子を見るや逃げ出していたが、女の子は執拗に虫を追い掛けて蹴散らしていく。どいてと言いつつ追い掛けて潰していく。それはもう「親の仇か?」と疑問が浮かぶほどだ。明らかにもう追い付けない所にいる虫でさえ、足元にいる虫をハンマーで殴り飛ばして当てていく。
ザラキの頭のなかに、巨人族は虫が嫌い、という間違った情報がインプットされた。
最後の一匹を踏み潰して、女の子による大虫の殲滅が完了した。
ふう、と、女の子が一息吐き、辺りを見回し始める。
こちらを向きザラキと目があった。
「 …あ、と、その… 」
じわりと目元に涙が溢れるのを見て、ザラキはぎょっとした。
女の子に対して何かしてしまっただろうか?それとも顔が怖かったか?
ザラキの近くにいる女は総じて強い為、泣かれると言うことが殆ど無い。その為、ザラキは目の前で涙ぐむ女の子にどうして良いか分からずに慌てた。だが。
「 ずみまぜん、 遅刻じまじだぁあーー!!! 」
女の子はハンマー抱き締めて全力で謝罪をした。