第一の門番.3
見渡す限りの密林。それは地上に降りても変わり無く、視界を緑が埋め尽くしている。
ジュノ国の光景に近いだろうか?
違うのは虫がいないことか。
いや、
『……静かだね』
鳥も居ない。
獣の時に鍛えられた獲物を見付ける感覚が全く作動しない。それはつまり、獲物となる生物が居ないということ。
「何て言うか、不気味だヨ。こんだけ静かだと居場所がすぐ割れちゃうネ」
「確かに」
一歩踏み出す度に、草が鳴る。
普段だと様々な鳴き声によって消されるのだが、これだけ静かでは筒抜けだ。
「!!」
ビリリとした気配が物凄い速度で迫ってくる。
即座に振り向き構えるや、現れたのは頭部が四つに裂けた化け物だった。見た目はジャガーだが、体は植物でできている。花を思わせる鮮やかな頭部は四つに裂けた口となっており、内部にはびっしりと刺が生え、舌代わりの蔓が複数こちらを向いている。
それがまっすぐにオレへと跳んできた。
普通、先に狙うのは女子供などの比較的ひ弱に見える者だが、もしやこれは指示されたものか。
速度は大したことない。いける!
左手に魔力を纏わせ払う。ビキキという音を上げて植物の獣は凍り付き、次いで斎主を振るうと粉々に砕け散った。これで終わりと思った、だが、そこで予想外の攻撃が加えられた。
「!? げほっ!」
視界一杯に白い煙が覆い尽くした。違う、斬り付けた断面から噴き出したのだ。
「ゴメン!」
「ブッ!」
背後から突然の圧で一瞬倒れかけたが、何とか耐えた。全身が濡れた。口に入った味は塩。これは海水か。
「げほっ!げほっげほげほっ!!」
咳が止まらない。
「どうした!?毒か!?」
ニックが慌ててやって来るが、視界がボヤけて何も見えない。ヤバイな、手足が痺れる。おかしいな、割りと毒には耐性がついたと思ったんだが。
『毒かどうか分からないけど、視界がボヤけて咳が止まらないって言ってる。あと手足がビリビリしてるって』
ネコ、ナイス通訳!
グッジョッブを送ってやった。咳は止まらないが。
「不味いな。ライハには回復魔法を掛けてやれない。暴食の主は害ある魔法を消すんだろ?」
頷く。
「とすると回復魔法も消される可能性がある。かといっても外して掛けても毒に成るだけだ」
絶望した。
「取り敢えず自力で頑張ってもらうしかないさ。立てるか?」
「げほ、なん、げほげほっ」
くっそ喋れない辛い。しかも咳し過ぎて呼吸が苦しい。
問答無用にアウソの肩に腕を回され固定された。力が入らなくなってきてたからありがたい。
「とにかくさっきのやつは斬り付けるのは禁止で、基本殴るか、切ってしまった場合は息を止めてユイか俺かアウソの水で無効化して貰う事。分かったな」
ニックが冷静に言いながら、オレに気休めにと何かの魔方陣札を張り付けてる。すると少し呼吸が楽になった。なんの魔方陣だこれ。
「じゃあガルとシェルムとか打撃部隊がメインでって…」
ノルベルトが言い掛けた時、狼の遠吠えに似た音が次々に上がる。それは次第に数を増やし、こちらへとやって来ていた。
「まずは逃げながら何とかするぞ!!」
ボヤけて全然見えない視界の中で、ニックらしき影が何かの魔法を発動し、次の瞬間一斉に逃げ出した。