進撃.6
見慣れた景色がくるくると切り替わっては後ろへと消えていく。
その度に記憶が甦る。
医務室、シンゴと初めて一騎打ちをした広場、そしてこの城で殆んどを過ごした兵士の修練所がもうすぐ見えてくるという所で、嗅ぎ慣れた臭いが漂ってきた。
「血の臭いっ!」
急ブレーキを掛けると、釣られてユイも、その後ろにいたメンバーも慌てて足を止めた。
「何処だ?」
「多分、前方だけど、とんでもない量の出血だと思う…」
まだユイ達には感じ取れてないみたいだが、もしこれがスイかアーリャのものだとしたら大変な事になっていることは容易に想像できた。
現に、今の時点でも廊下には首を切断された死体がゴロゴロと転がっていて、そのすべての断面からは蔦がはみ出ていた。
嫌な予感が頭をよぎる。
「……」
剣の柄に手を添えつつ慎重に進んでいく。
今のところ動くものは無いが、嫌な空気は無くならない。それどころか、廊下に刻まれた夥しいまでの戦闘跡が、この場で行われた戦いの凄まじさを物語っていた。
「この戦い方は、スイさんですね…」
走りつつ、ユイがそう結論付けた。
「しっかし、戦い方がえげつない。まるでルツァとの戦いの跡だぜ」
「ああ、相当苦戦を強いられていたんだろうな」
と、ノルベルトとシェルム。
廊下には奥にいけば行くほどに血痕の量が増えていた。
味方はいない。たった一人でこの量の敵を相手取っていたのだ。
『扉が破壊されてる。彼処から更に強い臭いがするよ』
ネコが指し示す先には、修練所の扉。
だが、扉は木っ端微塵に粉砕され、唯一その場所を記憶しているオレとユイだけが修練所だと認識することができた。
急いで扉へと向かう。
音はない。だが、そこに何かがあるという気配だけがあった。
「…な…っ!!」
目を疑う光景だった。
雑草一つ無く手入れされていた筈の修練所は野草が埋めつくし、だが先の戦闘によって滅茶苦茶になっていた。土が抉られてひっくり返り、真っ二つに割け、水で陥没して巨大な沼地のようになっている。
だが、更にその上に数え切れないほどの人の形をしたものが積み重なり、山となっている。
そのなかに、その人は居た。
「…………スイさん…」
相討ち。
そんな表現が近いだろう。
蔦に体の下半分が飲まれながらも、目の前にいる人物の首の切断に成功していた。だが、スイも胸を剣に貫かれ、その剣を伝って蔦がスイの体にいくつも突き刺さっていたが、首を切断された為に動きを止めていた。
池を赤く染めていたのは全てスイのものだった。
だらんと垂れた手にはまだ剣を掴んでいたが、既に事切れていた。
真っ赤に染まった口許には僅かに笑みが浮かんでいたが、何故笑みが浮かんでいるのかは誰も知ることができない。
ずっ、と、ユイの方から微かな音がした。
「!」
近くに頭が転がっていた。
穏やかな表情をした、よく知っている人だった。
ソロ隊長。
ああ、そうか。身内とか、言っていたか。
よく見てみれば、あちこちに知った顔。本当なら、生きて、再会したかったな。
ホールデンには良い思い出はないと思ってたが。いいや、間違いだった。ちゃんと良い思い出もあったらしい。
短い間だったが、お世話になった。
仲間のように接してくれていた。
そういえば、まだオレはお礼も言えてなかった。
ジワリと目元が熱い。
「…すぅ、ふぅぅ…」
隣でユイがゆっくり呼吸をしていた。
そして、スイに向かって深く頭を下げた。
「今まで、有り難うございました。また巡り逢う時まで、さようなら」
震える声で紡がれる言葉は、重く響く。
オレも頭を下げた。
ユイ程ではないが、とてもお世話になった。
「さようなら」
頭を上げ、踵を返した。
ユイがもう一度だけ振り返り、そして歩き始めた。
全て終えたら、弔いに戻ります。
その為には、生きて勝たなければ。




