総力戦、開始.28
マジか。
だが、今んところ変わった様子は見られない。
強いて言うなら、城の周りに巨大な魔力の膜が渦巻いているのと、空に巨大な魔方陣が出現してるだけだ。
だが、その動きは殆ど停止し、その場から動かない。いや、動いてはいるのだが、とてつもなく遅く、まるでハイスピードカメラの映像を見ているかのようだ。
それに、魔力が混沌属性が多いものの、ノルベルト達の様子に変化は無さそうに見えた。
魔法は止めきれなかった。
──だが。
「…良い情報は?」
ノルベルトとレーニォが互いの顔を見て、悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。
「作戦、成功や」
灼熱の大地。
空は赤く、灰色の大地が何処までも続いている。
その中で、突如として焼かれたオアシスのようなものが出現していた。
本来ならば、砂漠にある楽園のように瑞々しい植物や風で波打つ泉があったのだが、今は満遍なく焼かれて炭と化していた。
その範囲、全長一キロ弱。
ひび割れた大地に真っ赤な溶岩が顔をチラチラと見せているが、そのすぐ側で新たな芽が焼かれながらも、生きようと葉を広げていた。
ザフッ、と、真っ黒になった植物を踏んで進む者があった。
「はぁ……はぁ……」
呼吸を荒くしながらも、何とか前に進み目的の場所へと向かっている。それを静かに見詰めるものがいるとは露知らず、彼女、カリアは痛む体を抱えながら進んだ。
神化は解除され、ブリーギットは沈黙し、無理をしたせいで今にも崩れそうな右腕を左手で支えながらも、最早ただの黒の蔦の塊と化した棒のようなものをいまだに掴んでいた。
いや、手を開くという動作すら、今のカリアの右腕には耐えられない負担なのだろう。
だから使うことすら出来ない重荷を未だに掴み続けていると言っても良い。
魔力は底をついた。
ブリーギットによる回復も不可能な程に、全力の攻撃をした。
技名は『流転無窮』。
二人の女神の持てる限りの最強の能力であった。
「はぁ…はぁ……」
大量の蔦に覆われた物体を見つけた。
それは飛び立とうとしているのを蔦に拘束されて叶わず、絶望の表情を張り付けた顔で天に手を伸ばしていた。
体は硬く、石のように固まっていた。
魔力が尽きそうになったサラドラは、回復するために灰に潜って復活をしようとしたのだろう。
ここは太陽が無いから。
だが、地面はカリアの干渉にて灰とは別のモノへと変えられており、サラドラは翼を広げ少し離れた灰へと向かおうとしたのだろう。だが、干渉された地面はそれを察知して大量の蔦がサラドラを拘束した。
その為サラドラは飛び立つことができず、辿り着くことの出来なかった空へと手を伸ばしながら、生き延びるために自らの体を石へと変えたのだ。
サラドラは不死鳥だ。文字通り死はない。
恐らくこの石化も魔力を回復するための緊急措置なのだろう。
太陽から熱を貰い、自分で魔力を動けるまでに回復させるため。
だが、少なくともこの先数十年はこのままの状態だろう。
動けなければ邪魔もできまい。
そんなサラドラを見詰め、カリアは口を開いた。
「…こっちの、勝ちよ」
死ぬかと思った。だが、こんなところでくたばるわけにはいかないと、更なる結び付きを強めて耐えきった。
──パキン。
だけども、心と体は別物だ。
意識をしなくても、体が壊れていく音が絶え間なく聞こえていた。
感覚はすでにない。
「……何とかして、戻らないと」
勝てば戻れると思ったが、そうもいかなかったようだ。現実は厳しい。
どうやったら戻れるだろうか。
サラドラに背を向け、戻れる手段を探そうとしたとき、背後から激しい揺れと轟音。そしてなにかが踏み潰される音か聞こえた。
「!」
巨大な気配を感じてカリアは振り返った。
そして、驚愕した。
『ふははははは、なんという幸運だ。やはりお前とは縁があると思ってた!!』
「……リューシュ…っ…!」
随分縮んだが、間違いなくリューシュであった。幾つの首がこちらを見ている。バキンと再び音がしてそちらに目を向けると、石化したサラドラが無惨にも踏み潰されて粉々になっていた。
『サラドラに閉じ込められた時は絶望でしかなかったがな、邪魔が入らぬというのは、閉じ込められるというのも案外悪いことでは無かったらしい』
体に圧が掛かる。動けない。
『サラドラは死んだ。誰もこの世界には来られまい。さあ!!楽しもう!!!』
リューシュの手が視界一杯に広がったのを、カリアはどうすること無くただ見詰めるしか出来なかった。