決戦前.9
翌日、灰馬連れて言われたところに行く。
別の宿に泊まったらしいアンノーン達はまだいない。
目的の人物の居るところは遠いらしく、連れてこいと言われた。
『……眠い』
「分かる」
あの後、これからの予定されている計画をざっくりと教えられたが、教えられたのはあくまで予定なので、もしかしたら前後、もしくは敵の出方によっては変わるかもしれないと言われた。
「彼らはわざわざ端から出向いてくれるからねー。文句を言える立場ではないし、お願いしてる側って言うか、向こうも頑張ってくれるわけだし」
と、いう感じ。
地図で見ても、大陸の端から来てくれるんだ。
来るだけでも大変なのに、その後に待ってるのは生死を掛けた戦いなのだ。
「にしても、作戦がざっくりし過ぎだと思うんだよ。いや、カリアさんの作戦も同じようなもんだけど、文章にしたら箇条書きできるよこれ」
『かじょーがき?』
「後で教えるよ」
ホントにそれくらい。
ただ、それが成功するかどうかは、これから会いに行く人物次第らしい。責任重大すぎて胃が痛くなりそう。
「お待たせー」
アンノーンの声。
振り返ると、乗馬したアンノーンと、何故か荷車に乗せられたユイ。
しかもどことなく乗り慣れてる感半端ない。
『ライハ、あの子見たこと無い?』
「どの子?」
『あの子』
ネコが尻尾で駿馬を指す。
何の変哲もない茶毛の駿馬だが、とまで思って、理解した。
見たことある。あいつ、前キリコが乗ってた駿馬だ。
茶毛の駿馬なんて山ほどいるじゃないかと思われるだろう。違うのだ。キリコの駿馬は、一見茶色一色だが、首もとの色が薄いところがあって、角度によってハートに見えるのだ。
そんな駿馬がたくさんいるか?いないだろう?
駿馬もこちらに気が付いて、少し尻尾を振った。
覚えてたのか。
てか、まさかアンノーンの元に渡っていたとは、世界は狭いな。
「どした?」
「いえ。あの、スイさんは?」
一緒ではないのか。
「スイはこの国の隠し通路をみんなに教えてる。せっかくだし、使えそうな情報はどんどん教えていかなきゃ」
「確かに」
緊急時に使うものを隠してても意味無いものな。
「さて、行きますかね。途中魔法使うけど、合図はするから冷静にね」
アンノーンが駿馬を歩かせ始める。その少し後ろに付けて着いていく。
荷台で寛ぐユイ。その傍らにはパンパンになった袋。中身は見えないが何だろうか。
「こんな姿で悪いね、本当は俺も駿馬が良いんだが、こっちのが慣れてしまって」
「正直、ちょっと楽しそうで羨ましいです」
子供の頃田舎に遊びにいったときに、荷車に乗せられて水を汲みに行ってたのを思い出す。あれは楽しかった。
そういうと、灰馬が小さく唸りだした。
「……でも乗馬のがたのしいなぁー」
唸りが止む。
嫉妬されたらしい。
それを見ていたユイが笑う。
『ネコもちょっと行ってみたい』
ひょいとジャンプして荷車に移ったネコ。
しばらく堪能したあと、戻ってきた。
「どうだった?」
『小さいモードだと酔うかも』
「なるほど」
ごとごとと、街が小さくなっていったところで、ようやくアンノーンが「そろそろだぞ」と合図を送ってきた。
目の前にあるのはただの木だ。それが、アンノーンが指を鳴らすとグニャリと歪んで、木の中にポッカリと穴が開き、景色が見えた。だが、周りの景色と違う。
「一瞬気持ち悪いけど我慢な」
木の中に一歩足を踏み入れた瞬間、微かな浮遊感が襲う。ついで、突然重力が戻り、景色が切り替わった。
「空気が」
森の中だ。
前方に見えるのは頑丈な壁。そこを沿いながら、門へと近付いていって、思わず体が強張った。
見覚えがある。
此処が何処かも知っている。
体が覚えている。
脳裏を掠めるのは、敵意をもってオレを討伐しようと向かってくる人達。ジョウジョの巧妙な罠に嵌まって、嫌と言うほどに味わった絶望。聖水の痛み、死の恐怖。
「おい、大丈夫か?」
「!」
ユイの声で我に返った。
落ち着け、もう終わった事だ。
今は角もない。
心臓が早鐘を打ってる。
ネコも身を強張らせており、撫でてやると、少し落ち着いた。
「大丈夫です」
深呼吸して、気持ちを切り替える。大丈夫、大丈夫だ。
「中に入るぞ。身分証を出しとけよ」