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ひたすら東へ

 さっきから気になることがあった。

 それはキリコとカリアが持つ剥ぎ取ったものを次々に放り込んでいる茶色い袋。

 見た目はただの革製の袋なのだが、その袋は入れたものに合わせて伸びている。


 現に、ホンビット、こちらで言う白角兎(ハク・カクウ)の角を入れたカリアの袋が縦に長く伸びていた。


(何の素材で出来ているんだろう…)


「おい手止めんな!急がんといろんなの来てめんどくさくなるぞ」


「あ、そうだった。急げ急げ」


 袋の謎は気になるが、今は剥ぎ取りに集中しないといけない。


 理由は血の臭いを嗅いだマヌムンや獣がわんさかやって来るから。


 アウソと見張りに当たったときに、当時お金に困っていて、手っ取り早く素材を入手して稼ごうとハク・カクウを討伐して集まった雑魚を狩るつもりで放置したら、予想外に危険高ランクのマヌムンがほいほい集まって来ちゃって死にかけた話を聞いた。

 本人いわく『あんなことはもう二度とやらない』と言っていて、実際カリアに助けられるまで人食い犬と評判名高い悪食犬(ケルバー)四頭に追い掛け回されていたとか。おお怖い。


「よし!剥ぎ取り終わった?終わったね?じゃあ逃げるよ!」


 おー!と声張り上げて武器を片手に全力でその場から離れた。途中臭いに釣られてやって来た獣数体に襲われたが大したことはなく、危険高ランクのマヌムン達はウサギの方へ向かっていったらしい。


 そして現在ウサギ争奪戦が行われているのか後ろから恐ろしい咆哮や唸り声が聞こえてオレの血の気は下がりっぱなしであった。








 声が聞こえなくなった辺りで走る足を緩める。


「いやー、相変わらず良い集まりっぷりね。アウソのウサギ放置事件以来じゃない?あそこまで集まったの」


 途中で後ろ向きで歩き背後を見ながらカリアが言う。


「子ウサギ美味しいですからねぇ」


 それに古傷をナチュラルに抉られたアウソがやんわり流す。


「そうそう子ウサギ美味しいもんね。なので今日は久々に焼き兎ー!」


「ウサギそんなに美味しいんですか?」


「そりゃね、楽しみにしてるよ」


 じゅるりとカリアが口元を腕で拭ったのをオレは見逃さなかった。そうか、そんなに美味しいのか。


 日が傾き始める。


 その頃には既に焚き火をおこし、夕飯の準備を始めていた。


「今回早くないですか?」


「今日から道じゃないからね。夜にやったらマヌムンわんさかやって来るからこの“入替(いれか)え”(どき)が都合がいいんよ」


「なるほど」


 入替(いれか)(どき)とはマヌムンの昼活動するやつと夜行性がちょうど入れ替わる時間帯の事で、季節によって違うのだが、昼活動するやつはお腹一杯で巣に帰り夜行性は巣から出てきて動きが鈍い。


 場所によってマヌムンの数は二倍になるのだが、その代わり双方自分の事に精一杯になるので多少血の臭いがしてもよほどの事じゃない限り素通りしてくれるのだ。


「できた!」


「食べるわよ!」


「いただきます!」


 ジューシーに焼けたウサギ肉にかぶりつくと口一杯に濃厚な味が広がった。

 何でだろう、ウサギなのに牛みたいな味がする。


 それもただの牛ではない、物凄く美味いやつ。


「…ウサギってこんな味なの?」


「こいつは特別さ。ポポンダの花を良く食べるから噛んでると甘味も出てくるだろ?」


「確かに」


 噛めば噛むだけお米のように甘味も滲み出してくるが、それが肉の油と調味料と交わって更に旨味が増幅していた。


 調味料なんて塩と胡椒(コショウ)唐柿(カラカキ)粉だけだというのに。

 ちなみに唐柿粉はトマトを乾燥させて粉にしたもの。この国はなんにでもトマトを入れやがる。


「うまいか?」


「グルグル…」


 猫にも生のやつをあげると美味しそうに食べていた。こいつ、元は野良猫だったのかなと思うときがある。理由は綺麗な料理を食べているよりも、こういう野性味溢れるものを食べてる姿の方がしっくりくるからである。


 大量に剥ぎ取ったウサギ肉を半分ほど平らげると少しだけ休憩し、火をしっかり消してまた少しだけ歩いた。

 食後の運動ではない、夜行性のやつらがやって来るからだ。


 完全に日が沈み暗くなってしまったところで適当な大きな樹の根本へと腰を下ろし、カリアが鞄から何やら光る棒つきの風船を手渡してきた。


「樹の根本に横たわり、お腹の所に荷物を、そしてこのホヅキを荷物から少し離れた所に刺すよ。夜行性は夜目が利きすぎるから、これくらい光る物は眩しすぎて周りにあるものを見えずらくするから」


 そう説明する。


 確かにその光は凄く眩しかった。目を細めてちょうど良いくらいの光量なのに、それに加えて白いものがキラキラ寄って来ていたからだ。


「これ、中身なんですか?」


「光苔に陣印を彫った魔石よ」


「苔なのか」


 なんて自己主張の強い苔だ。


「適度に太陽に当てて水をやるだけで枯れるまで光るから便利なんよ。洞窟とかでは使わないことをお勧めするけど」


 何でだろうか。

 そんなことを思っているとアウソが答えた。


「洞窟系ダンジョンのマヌムンどもは光に寄ってきちまうからな。特に強い光だとわらわら来る」


「わらわらはちょっと止めて欲しい…。火は駄目なんですか?」


「火でも良いけど、ここらだと道以外ではこっちのが良いわね。特にこの季節は。まぁ、その内分かるよ」


 ホヅキを手渡され、言われた通りに設置するとあらかじめ決めておいた見張りにおやすみと声を掛けて寝た。









 翌朝、日が明けると共に起き出し、簡単な食べ物を食べながら出発した。


 ここらから生活リズムが少しずつ変わり、一日三食ではなくお腹が空けば携帯食をかじりつつ歩き続ける。朝と夜はしっかり食べるが合間の時間は人によって。理由は道ではなく森の中を突っ切る事からマヌムンの遭遇率が上がり、出来るだけ移動し続ける為と、マヌムンと遭遇した時にお腹が空いて満足に動けないのを防ぐためだった。


 しかし食べ過ぎてもいけない。

 食べ過ぎて動けないなんて間抜けな事が起きないよう携帯食は少量で、かつ、途中で見付けた食べられるものは回収して今後の足しにしている。


(なんというか、一日三食を必ず食べる生活を送っていたからなんだか変な感じだ)


 食べられるときに食べておく。


 それがフリーハンターでは常識なんだそうだ。




 しばらく行くとマヌムンを発見。

 一体は翼のある中型犬ほどの鼠に、もう一体は足が発達した大型犬ほどの赤い鶏。


「…二体か。有翼鼠(ラターラ)巨爪鳥(アガベラ)……、どっちがいい?」


 今回はオレに狩りのやり方を教えるためにいつもはスルーするマヌムン。それをあえて見付けようと果樹のありそうな所を通り見付けた獲物達だ。

 獲物達は今仲良く苺のような物を食べてる。こちらには全く気が付いていない。


「ラターラは飛ぶんですよね。じゃあアガベラを狙います」


「ん。じゃあ先にラターラを仕留めとこう」


 キリコから手渡された短弓をカリアがラターラへ向けて矢をつがえる。


「矢が当たったら、すぐに斬りかかるよ」


「はい」


 カンッと乾いた音を弓はさせ、矢は勢い良くラターラの胴体へと突き刺さる。急所を貫いたのだろう。悲鳴を上げることもなくラターラは地面へと転がった。

 突然の襲撃に驚いたアガベラが全身の羽をぶわりと逆立て警戒し、向かってくるオレへ『ケーン!』と鳴き声をあげた。そのアガベラに向かって短剣を振るが、なんと足を蹴るように持ち上げて巨大な爪で防がれてしまった。


「おお!?」


 舐めてた訳ではないが驚いた。


 しかも器用なことに突き刺そうとしても鳥蹴りで軌道を逸らし、あまつさえ爪で引っ掻こうとしてくる。


 フェイントを入れつつ攻撃し続け、ようやくアガベラを倒すことができた。


「やっべぇ、鶏ってこんなに強かったのか」


 そして素早い。


 隙をついて逃げようとするのをカリアが矢で退路を塞いでおいてくれてなかったらあっさり逃げられていたことだろう。


「ラターラは食べれる所がほぼ無いから皮だけ剥いで肉は遠くに置いておこう。アガベラは持っていくよ」


「分かりました」


 二体の獲物と、まだ使える矢を持って帰る。

 矢はカリアに渡し、獲物はしばらく歩いたところで解体した。


 これを繰り返しながら進む。


 強い敵はカリアとキリコが


 そこそこな奴はオレとアウソが。


 そして弱いけど一人だとちょっとめんどくさい奴をオレが練習として仕留め経験を積んでいく。


 こうして分かったことが一つ。


 マヌムンの強さというのは大きさに比例しない事もある。


 確かに体の大きいマヌムンに一攻撃で意識失うのもなかなかの恐怖だが、子犬ほどのマヌムンに一瞬の隙をかかれて喉をかっ切られる方がオレは怖い。奴等は自分が小さい分、攻撃は全て相手を動けなくさせたり殺すために急所を必ず狙ってくる。


 そしてもっとも厄介なのが、これ。


「や、ややヤバいこれ痺れる!毒!?毒ですか!?」


 毒持ちだ。


 小さいマヌムンは結構な確率で毒を持っていたりする。


 オレは何回かこの毒攻撃に合い、悶絶した。

 毒といっても運良く痺れ毒が多かったが、奴等はこれで動きを封じて止めを刺しに来るから笑えない。


「ただの痺れ毒よ。はい、これ飲んで」


「ライハ毒多いなぁー、一日5体倒したマヌムンの内4体が毒とかしにウケるんだけど」


「うえぇ、苦いぃ」


「効き目はバッチリだから我慢するよ」


 紫のドロッとした舌触りの悪い薬を飲みながら毒攻撃してきたマヌムンを睨み付けるようにして必死に覚えた。

 毒は正直辛い。

 なので出来る限り避けたい。


「………ニャナ、ケケケケケケッ!」


 のだが、見付ける度に猫が尻尾を小刻みに振りながら威嚇する。

 仕方がないので一回試しに猫に小さいのをやらせてみたらあっさり勝利しやがった。猫怖い。


 そんなことを繰り返し、12日目の昼。


「うーん、思ったよりも早くつけたね。もうけ」


 チクセ村へと辿り着いたのだった。

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