決戦前.3
久しぶりにスマホを開いて、思わず閉じかけた。
わーい、受信履歴が凄いことに。
下から順に見ていくと、半分ほどがオレへの心配の言葉だった。
あれ?いつから見てないっけ?もう覚えてないな。
見た気もするけど、タイムラグでも発生したのか?
「ん?」
その中で懐かしい宛名を発見した。
ユイさん。
元気そう……。良かった。
ちらりとリオンスシャーレにてフリーダンにユイの話を聞かされ生きていることは知っていたが、あれきり連絡がないのでどうしたのかと心配はしていたのだ。
メールを開くと付属ファイル。開いてみると、なんと知ってる顔がいくつも。
「今ユイさん、ノノハラ達と一緒なのか。……ん?」
ちらりと赤い髪の子供が写ってる。
なんか、見たことあるような。何処でだっけ?
すんでで思い出せない。
でも赤い髪はアシュレイ特有。そこまで考えて、あ、と声が上がった。
「もしかしてこの子、同じ見世物にいた子か!?うわー、でかくなって。てかこの犬も檻にいたのじゃん。世界は狭いなぁ」
メールでさっくりと今までの出来事が綴られていて、ほっこりした。ユイさん、リトービットの所で冬の間修行してたんですね。癒されそう。
雪崩は怖いけど、温泉もあったし、良いところであった。
「よし」
さっそく新規メールを立ち上げると、こちらもネコと隠し撮りした皆の写真を付属させ、今まであった事を書き始めた。書いても書いても書ききれない。
流石に遊撃隊が全滅したのを書くときに手が震えたが、それも余すことなく書いた。
画像フォルダには、皆の写真がある。集合写真も。危うく技術班に分解されかけたが、それすらもいい思い出となっていた。
ラビの写真。
指でなぞり、額に押し当てる。
絶対に体を取り戻して、ちゃんと弔うから、もう少しだけ待っててくれ。
ニックの眉間に皺が寄った。
手にしたものは女性の右腕。だが、前腕から肘に掛けて斑に黒く変色し、所々ひび割れた箇所からは、血の赤が覗いている。いや、見ようによっては、ひび割れた火山岩から覗くマグマ。現に触れているところは熱く、焼けているような匂いが漂っている気さえした。
だが、ニックの目にはソレ以外にも見えているものがあった。
禍々しい黒と赤い魔力が腕に巻き付いて、ドロリとした怨念じみたものが腕の裂目から潜り込んでいっていた。
一目見てわかった。
これは呪いだ。
しかも一度受けたら解除できない類いの。
魔力が干渉している範囲は二の腕の途中まで。まだそれより先は侵されていないが、放っておけばいずれそちらにも広がっていくだろう。
「……やっぱり、無理そうなんだね」
「……、ええ、これは解除できないものです。通常の呪いなら干渉して流れを止めればなんとかなりますが、人に放った呪いの矛先を無理矢理変えたせいで変異していて。悪魔が直接作った物は解読しきれないものが多く…。すみません」
「………、そうか。あんたがいうなら、決心がついたよ。いつまで持つ?」
「腕を絶対安静状態で一年。ですが」
「そうね。そんなことできやしない」
腕をニックから離し、包帯を巻き始める。カリアが己の腕を見詰め、口許に笑みを浮かべた。
「最後は分かるもの?」
「腕全身が黒くなった後はだんだん高質化して、まんべんなくヒビが入って砕け散るかと」
「良かった。分かりやすくて」
「ですがそのままでは全身にも呪いが巡っていきます。腕はどうにもなりませんが、腕だけで止めるだけならできます」
「本当?そりゃあ助かるよ。どうすればいい?」
「結構痛みますよ?」
「腕だけで終わるなら大したことない」
カリアの何でもないという顔を見て、ニックは頷いた。
この人は、例え腕が砕けても止まることはないのだろう。
カリアの差し出された腕を取り、鞄から針と、魔墨の瓶を取り出した。
「では、失礼します」