隠密.8
四人が走る。階段を駆け下り、近くの触媒を探す。
「いたか!?」
「いない!!向こうを探す!!」
バタバタと足音が忙しなく動き回っている。近くに人がいるせいで天井上へ行けない。
光彩魔法で壁際に張り付きタイミングをはかる。
一人だと自由に動き回れるが、人数が増えるとその場から動けば効果が薄まってしまう。
もしアーリャなら大人数でもいけただろうが、俺はこっち方面の光彩魔法を練習していなかった。
後悔していたが、後の祭りだ。持てる技術で何とかするしかない。
そんな感じでじっとしていると、ウコヨとサコネも焦った様子で身動ぎしていた。
聞くところによると、この二人は移動魔法を操る魔術師であるそうだが、師匠の意に反した行動をとったせいであらゆる魔法を制限されてしまっている。
二人の腕には網目に絡まった矢のタトゥーのような封印が彫られている。これを解除しないと移動魔法は使えない。
(ライハなら、きっと一瞬で解けたんだろうが…)
あいつは自分には才能がないとぼやいていたが、一目見てどの形状でどういう作用する魔方陣なのかをすぐさま見抜き、反転の呪い抜きでも解除できる技術を持っている。
実は、魔方陣の解除は高等技術だ。
複雑に絡み合った糸を解くように、正しい流れを見付け、その流れにある点に魔力を流し込んで介入、いわゆる魔方陣に流れる魔力を停止させる。それをライハは呪いで止めているだけであって、順序を違えれば意味がないのだ。
ライハは魔方陣の弱いところを、流れを見切れる。
前に、隊員交えて教えてもらったが、初級しか分からなかった。
本人は慣れだと言っていたけど。
(もっとちゃんと教えて貰うんだった)
服に圧が掛かる。
目を向けると息を荒くしたウコヨとサコネ。
「ごめん。私達、いつも飛んでいくから、体力が…」
「わかる。めっちゃ脚にくるね……」
人のいない隙を狙って駆けているからか、体力の消耗が激しいらしい。
女性に負担を掛けてしまうのは申し訳ない。
「すみません。けど、もう少しです。もう少し辛抱してくれますか?」
「うん」
「大丈夫、頑張れるよ」
少し元気が出てくれたみたいで安心した。その様子を、タゴスが変な顔をして見ていた。なんだよ。
「……よし!いける!」
人が消えた一瞬のうちに廊下に飛び出て、近くの壁に向かって手を振るう。
掌から飛んでいく光が壁に張り付き、魔方陣が展開。
それを四方に施す。
「レディ、失礼」
双子の肩に意識逸らしの魔方陣を張り付け、タゴスの額にも力一杯張り付けた。
「いってえ!!」
タゴスが額を押さえる。
「時間がありません!急いで!」
施した魔方陣には制限時間がある。
なんだなんだと双子が押されるままに結界内部にまで進み、何かに気付いた。
「なるほどね!」
地を強く蹴ると、双子の体がふわりと浮いて、天井までとどく。天井板をヤンの手伝いで外し、中へと滑り込んだ。
突然なんだよと目を丸くしながらも、タゴスも同じようにして天井裏へと到達し、最後に時間制限ギリギリで俺も天井裏へと辿り着いた。
重力が元に戻った。
体に掛かる重みにほっと息をつく。成功して良かった。
「お前、なんつー魔方陣の使い方するんだよ……、なんだそれ…、得意技か?」
「いえ、さっき思い付いてギリギリ成功しました。良かったちゃんと作動して」
紙もペン無かったから。流暢に壁に描いてる暇なんか無いだろうし、魔力で描いた複数の魔方陣を掌に溜め、対象に向かって飛ばし、すぐさま光彩魔法で焼き付ける。
籠められた魔力が少量だったから制限時間があまりなかったが。
右手が無理をさせたからか軽く痺れている。
自身にも意識逸らしの魔方陣を張り付け、皆の方を向くと、三人とも盛大に呆れ顔をしていた。
「風の噂で、人間のとこの魔法も攻撃力も狂った部隊があるって聞いていたが、お前を見て納得したわ」
「そりゃ、どうも」
「どうりで、やつらが早めに仕留めないとと騒いでいたわけだ」
四つん這いでタゴスが先を行く。
「お前らが、ここまで無事辿り着いてたら、この戦争はすぐに終わっていただろうな」
「………」
頭の後ろが重い。
そういえば、ライハは無事だったのかも分からない。
俺が覚えているのは自分が殺された所迄だからだ。
「ああ、そういや、一応教えておくけど、ライハは生きてるぞ。生かしたってのが正しいけど。ここの結界を解けば、間違いなく来るだろうな」
「!」
「向こうは完全にお前を死んだと思っているだろうから、俺達で驚かせてやろうぜ」
シシシシとタゴスが笑う。
そんな様子を見て、思わず俺も悪戯心が沸いた。
「だな、楽しみだ」
目がすごい腫れちゃって、長く画面見てると痛みが増すので少しお休みします
なんだろう、毒虫に刺されたのかな?




