双子のオウム
「ねぇ…もしかしたら“ジョーカノギ”をやり過ぎたんじゃない?」
「もしかしたら“コモレビ”の方かも…。…それとも“コウホウ”の方かしら…。
この人確か心に傷を負ってる人でしょ?急激なシンセー系乱用してんのに更に“シュクフク”と“サバク”追加で魔力中毒起こしてんじゃない?」
「うわぁ…、その可能性はありそうね……。取り扱いにも心傷の人には注意って言われてたし…」
二羽のオウムがお喋りしていた。
何故かオウムは頭巾を被り白装束姿でオレを覗き込んでいたが。
「“シュクフク”と“サバク”はちゃんと作用したのかしら?」
「どうなのかしらね。もしダメでも回復しきる前にもう一度掛けると思うわ」
「…ほんと、勇者が来る度に大変……。給金上げて欲しいよ…」
「しっ、それ禁句!」
勇者…?
その言葉で意識が急浮上した。
目を開くとふかふかのベッドに寝かされていた。
目の前には白を貴重とした天井に薄い水色で細かい模様が描かれていて、控え目だけど手の込みようが凄い。
「…ん?」
ゆっくりと身を起こして辺りを見回す。
そこそこの広さのある部屋だった。
そこで疑問が沸いてくる、さっきまで薄暗い部屋にいなかったか?
「お目覚めですか?」
「!」
突然の声掛けに驚いて慌てて声の主を探せば、あの魔術師が部屋の隅で此方を見ていた。
「……ああ、えーと…」
「ウロです。もしくは神官とでも呼んでください」
魔術師ではなく神官だったのか。
「ウロさん…。その、すみません急に倒れたみたいで」
「いえ、構いません。私こそライハ様の異変に気付けずに…」
言いながらウロさんはベッドの端に腰掛け、オレの手を取った。
「…申し訳ございません」
「いえいえ、大丈夫です。こちらこそすみません」
言いながらウロはズいっと顔を近付けてくる。
もうすでに顔がぶつかりそうな程の距離しかないが、フードの中は残念ながら暗くて見れない。
てか近い。離れて。
思いが通じたのか、ウロは静かに顔を離した。
その時微妙にフードの開いた所から金髪が見えた。結構な長さの髪だ。
「オレどのくらい寝てたんですか?」
「そうですね、丸一日ほど」
「………丸一日?」
「はい」
寝過ぎじゃないか。
「…他の人達は、どうしたんですか?」
他の勇者達の様子を聞いてみる。
こっちは死にかけだったけど、他の人はヒャッハーになってたはずだからな。
「ああ、他の勇者達は必要な儀式を済ませまして、今神から授けられた力に慣れるために訓練所で特訓をしてもらっています」
「特訓?」
突然、鳴り響いた轟音に城が地震のように揺れる。
「!!」
「うおっ!?」
なんだ?と思う間もなくウロは窓の方へと駆け出し雨戸を開け、外へと身を乗り出した。
その瞬間、ブワリと風が入り込んで窓の外から濃厚な草の香りと土の香りが部屋中を満たして鼻腔を擽る。
まるで子供の頃に行った山のような清々しい空気だ。地元では味わえない空気の美味さを堪能する。
堪能しながら思う。あれ?何かおかしくないか?と。
「……まさか」
慌ててベッドから飛び降りてウロの横から窓の外を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
煉瓦と木造を合わせた作りの家々が今いる建物を中心に広がり、その更に遠くの方は見渡す限りの大自然に覆われていた。
はるか上空には飛行機ではない謎の巨大生き物が空を飛び、草原では恐竜クラスの何かが我が物顔で歩いている。
知らない世界がそこにあった。
「………まじかよ、ドッキリじゃなかったのか…」
そんな言葉が自然と口から零れ落ちたのだった。