隠密.5
タイミングが良い?
その言葉に引っ掛かりつつも、(倒したやつを階段で座り込んだような体勢にして放置した) ヤモリの後をついていくと、またしても人の気配。思わず身構えるもヤモリはグングン進んでいく。
「……おい……っ!」
姿も隠さず、どうしたんだ。
魔方陣札はない。ストックも、紙も。
だけど、やりようはある。
魔力はまだ少ない。
完全に姿を消したりすることは不可能だが、簡単な魔方陣なら描ける。
指先に魔力を溜め、掌にいつでも攻撃魔法を放てるように魔方陣を描いていく。魔方陣を描いた箇所が痛む。だが、これはある意味かくし球だ。拳を握る。
これでいつでも魔法を放てる。
ヤモリがなんのつもりか知らないが、もし攻撃されるようだったらすぐさま対応できるように。
だが、ヤモリは構わず進み、少しだけ警戒しながらその人を頭だけ姿を消して壁から覗き見ると、姿を表しそいつへと駆け寄っていった。
『タゴス!』
「ヤン、遅かったな。下が騒がしいから心配したぞ」
親しげに会話をしている。知り合いか?
『主助ケラレル人間連レテキタ』
「ああ、だからちゃんと“喋って”いるのか。……さて」
「!」
ビリビリと圧を感じる。殺気でも威圧でもない。
視線だけで、射抜かれる感じ。
向こうからは壁が死角になって見えないはずだけど。
恐らく敵ではないが、敵になったら厄介だと思った。
「安心して出て来てください、俺は敵ではありません。立ち位置的には、貴方の味方です」
「……」
本当か?
完全に信じられるわけではないが、少なくともあそこにはヤンがいる。
ここに隠れていても事態が好転する訳でもない。
そこで、アーリャの味方を探せという言葉を思い出した。
もしかして、こいつか?
壁の死角から出て、ようやくそいつを視認した。
ギリス人のような緑の髪、だが、光の加減によって青にも変わる。
みてすぐにわかった。
こいつ、色彩を弄っている。
オレンジを強くしたような目がこちらを見て、突然笑顔になった。
「俺はタゴス・メライダだ。よろしく、ライハの右腕君」
ライハを知っている?
「ラヴィーノ・スパニーアだ。ライハを知っているんですか?」
「ああ。知っているどころか、俺が始めにライハに剣の振り方を教えたからな。まぁ、あれだ。安心して欲しい、俺は君らの敵ではない。自由に動けはしないがな」
そこまで聞いて、少しだけ警戒を解いた。
そういえば、前に一度だけタゴスの名前が出ていた。
ホールデンで初めてできた友達。
なるほど、アーリャの言っていたのはこいつか。
「よろしく」
「おう。早速だが、君は鍵開けの技術は持ってるか?」
いきなりなんだ?
タゴスが後ろの扉を示す。
ここは最上階で、階段はこの扉で終わっている。
「実はこの中に、もう一人、いや、二人ほど仲間が囚われているんだが、それを解放してやりたい」
『ヤン ノ 主』
「なるほど。魔方陣なんかは?」
「魔法封じの魔方陣だけだが、扉の外には影響がない。鍵も普通のものだ。だが、俺達では助けられなかった。俺達はこの中に入ると、消滅、もしくは……主人がすっ飛んでくるから入れない。もし、鍵開け出来ないのなら、ちょっと面倒だが下の鍵庫の方に……」
「道具はあるのか?」
「ある、持っている」
タゴスがピッキング用の道具を出した。
俺は元旅芸団出身だ。こういった細かい作業はお手のものだ。
「任せろ、すぐに開けてやる」




