絶望の淵で.1
酷い姿だった。
カリアは地面に倒れ混む前にライハの体を抱き止めた。
最後に見た時よりも逞しく一人前の男として成長していた弟子は、身体中赤く染まり、足もズタズタに裂けていた。頬は濡れ、見る限り魔力も枯渇寸前。
腕に刺さったままの剣を抜き、意識を失った弟子を横にさせて何故か治る様子の無い傷を止血した。
もう悪魔の姿はない。
攻撃のあと、竜達が一斉攻撃を行ったが、攻撃が当たる前に何処かへと転移されてしまった。
ジリジリと赤く焼き爛れ、痛む右腕を見る。
少しだけ無謀だったかもしれない。でも、先程はあれしか救う手立てがなかった。
当たる寸前、不思議な柱が立っていた方向から雷が飛んできて、光の威力を半減してくれていなかったら二人とも助からなかったかもしれない。
…いや、この身を犠牲にしてライハだけでも助けようとしていただろう。
ルキオ戦で更に力を付けても、そういう事でしか人一人救うことしか出来ないのは腹立たしいが、今は助かったことだけを喜ぶべきだ。
「師匠!!大丈夫!?」
「カリアさん!!」
『おのれ巨人の娘!!!やっていいことといけないことが──』
「グレイダン!!しっ!それは後にして!!」
グレイダンに乗った二人がやって来る。
その途中、周りの光景に眉を潜めていたが、無理もない。
まるで獣に食い荒らされた跡のように人が散乱しているのだから。
『おーい!!この柱に下敷き!下敷き?か?これ』
『何でもいい!変なのが下敷きになってるぞ!!』
『たーいしょーう!!』
『分かった!!今行くから待ってろ!!ではな、キリコ。我らはあの柱を何とかしてくる。そちらも終わったら、呼べ』
「わかったわ」
グレイダンが去っていくのを確認し、アウソも戻ってきた。
「駄目だ、他に生きてるやつはいなさそう」
「……そう」
「師匠、ひとまず離れよう。ここも安全だとは思えないし」
ライハの容態も良くない。腕の傷は治らないし、何よりも先程、生きる気力が無くなっていたようにも見えた。避ける気配も防御する様子もなく、攻撃を待ち構えているような光景に、カリアはゾッとした。
魔力は生きる力だ。
生きようとしなければ、十分な力が発揮されない。
ライハを担ぎ上げる。
「近くのキャンプへ向かうよ。キリコ、グレイダンを。あとアウソは警戒を張って、何か来ればすぐに連絡」
「りょーかい!」
──ごぽり。
口から気泡が溢れる。
微かに目を開けば、透き通る水のなかで、しかしいつもと違いとても冷たく暗い。
(夜の海のようだ)
底知れぬ恐怖が足元に広がっていても今となっては居心地がいい。
このまま眠ってしまいたい。
耳を手で塞ぎ、目を瞑る。
もう、何もしたくない。




