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虚空を見る.19

剣を避けられた。

これで、ラビの体を取り戻すことも出来なくなった。


今さら電撃を放とうと、落とすほどの魔力は残っていない。

両腕を垂らし、小さくなっていく悪魔を見詰める。


──オレは、無力だ…。


脚に力がとうとう入らなくなり、膝が地に着く。

体が冷たい。


ぶわりと殺気が向けられているのに気が付いた。

サラドラがこちらに魔法を放ってこようとしている。それなのに、不思議と避けようとする気持ちさえ沸いてこない。

ガラスの向こう側でエルファラが叫んでいるような気がするが、それを言葉として認識することすら拒否している。

もういい。


「……ごめん、みんな」


頬に熱いものが伝う。


視界を覆い尽くす光が迫ってくる、それが体を飲み込むのを静かに待った。







これは罰だと、そんな気持ちだったのだと思う。


皆を易々と死なせてしまったオレは、皆の屍を踏んで進む覚悟も強さもない。

目的が無いわけでもなかったが、それすらも、どうでもいいと思えていた。だから──。





「諦めんなァ!!!!」





光とオレの間に割り込んだその人を一瞬恨めしく思った。



「───レンシオ!!!」



その瞬間、思い出した。そういえばこの光景を前にも見たことがあると。


油断していた訳じゃなかった。いや、油断していたのか。

迫る巨大な攻撃に、これはさすがの俺も助からないなと、半分笑って、逝く覚悟を決めた瞬間。あの人が同じ言葉を言いながら俺を庇ったんだった。

そうだ。俺はコレを見たのは初めてではなかった。

何も無くなった荒野で一人生き残ったのも、師が俺を庇ったのも。


そういえば、その後あの人はどうなったのだっけ?



脳裏に掠める記憶は、血を吐き倒れる白髪のあの人で、最後まで俺を糞餓鬼だと貶し、攻撃の威力が想定以上だったとドジな事を言い、そして。


「じゃあな…」


初めて別れの言葉を残して俺を置いていった。



今の光景ともしリンクするのなら。

顔を上げる。


光が膨張し、破裂した。あまりの爆風に目をつぶる。

一瞬だけ見えたのは、その人が光を凪ぎ払う姿だった。


ふわりと焼けた臭いが流れ、目を開けると、その人は倒れること無くそこにいた。

以前よりも少し痩せたが、それと反比例するように魔力が向上している。相対しているだけで分かる、その強さと、その裏でどんなに過酷な事があったのかを。

それを目を逸らすこと無く目に焼き付け、飲み込んできた強さを。


紺色の髪が弱まっていく風に煽られてさらりと流れ、力強い紫色の瞳が真っ直ぐオレを見ている。



「遅くなった。 …よく生き残ってくれた」



やっぱりこの人の強さには敵わない。

オレは、どこまでも弱いな…。




「…カリア…さ……」


そこから意識が途切れた。








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