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虚空を見る.9

ギリス、そこには偉大なる魔術師と、古の魔法使いであるユエが椅子に腰掛けとある人物を待っていた。


精霊が満ちたこの空間にいるだけで魔力が回復していくのを感じる。

それは一般の、魔力の少ない人も例外ではなく、付き人として連れてきたモントルドとテッドも、蓄積した疲労がみるみるうちに引いているのか、しきりに動き回ってギリス周辺の魔物を狩っていた。


もっとも今日だけは大事な人が来るからと待機していて貰っているが、ソワソワと体を小さく動かしていた。


「ユエ様、疲れてませんか?」


そこへギリスのトップであるマーリンが声を掛けてきた。

長い髪を緩く三つ編みにした優男だ。しかしこれでも年齢は100を越えている。なのに見た目が20代後半なのだからある意味詐欺だ。


だけども、それを見上げるユエも、観測者を辞退するまでは同じような若い見た目をしていた。たまたま、辞退するときに、寿命が98年と出てしまった為にこうしてゆっくり歳を取りながら生きている。


(普通は長くても30行くか行かないかなんだけどねぇ。変なところで貯めていた運を使ってしまったようだ)


「いいえ、マーリン様、大丈夫です。それよりも私なんぞに様を付けるのはお止めになってください。貴方の方が上ですのに」


「そうはいきません!貴女があってこその私達なのですから!…それより、先日の物が無事届いたようですのでご安心ください。これでユエ様が心配なさっていた方は、より楽に戦えるでしょう」


「何から何まで助かります」


にこりと笑うと、マーリンもにこりと笑う。

ギブアンドテイクが上手くいっているからこうして対等な立場で接してもらえるのだ。


ギリスの魔術師達は誇り高い。少しでも目下に接しられていると感じられればそれ相応の対応をしてくる。遥か東の国に似た、鏡のような人たちだ。


「マーリン様、ユエ様。到着いたしました」


「わかりました。入ってもらいなさい」


部屋の中に、懐かしい顔と、会ったのは初めてだけど知っている人達がいた。


縁が結べて良かった。


「お師匠様。お久しぶりですね」


「久しぶり。今は、フリーダンだったかい?」


「ええ、暫くはこのままです」


視線をずらし、息を飲む三人と一匹、そして何を考えているのか分からない子に微笑んだ。


「はじめまして。ユエと言います。貴方達の名前はもう聞いているけど、改めて自己紹介をしてもらえるかい?」









この場に呼ばれたのは、フリーダンの弟子となったノノハラとナナハチ、リューセで鍛えながらホールデンを監視していたユイとグロレとリジョラ。


どれも結ぶべきして結ばれた縁のあるもの。


そして。


「やぁやぁやぁ!老けたねユエ!」


突然何もない空間が輝きだし、騎乗した男が現れた。駿馬の後ろに付けられた荷台には、何故かボロボロの男性二人が重なって放置されていた。


その内の一人にユイが気付いて「あ!」と声を上げ、ノノハラも気付いて「げっ!」と声を上げた。


「スイさん!!」

「…生きてたの」


二人が慌てたように荷台に駆け寄るのを傍目に見ながら、男がよっこらせと駿馬から降りた。


「冷凍蜥蜴を助けてたら遅くなっちゃった。ごめんごめん」


悪びれる様子のないその男はユエの前に立ち、溜め息を吐く。


「せっかく綺麗だったのに。勿体ない」


「はん。なんだかよくわかんない者があちらこちらをつついて回っていると思ったら、ノア、あんただったのか」


「せいかーい。ついでに呼ばれてないけど来ちゃった」


狐目の男がこてんと首を傾けるが、ユエは呆れた顔で見上げ、溜め息をひとつ。


「役目はどうした?確かあんたはあちらの観測者だろう。何でここにいる?」


「んー、と。答えは簡単。阻止しようと手を回してたらバレて追放されたから」


ノアと呼ばれた男は眉根を下げて答えた。

ノアは混沌と呼ばれる世界の観測者であった。その世界で、こちらに本格的に攻め込む気配を感じ、阻止するべく動いていたら追放され、追われていたという。


しかたなしにこちらでコソコソ活動し、準備が整ったので出てきたらしい。


「………言いたいことはたーっくさんあるけどねぇ、それは事が済んでからだ。さて!」


パンッとユエが手を叩くと、この場にいた全員が注目した。


「皆をここに集めたのはこの録でもない戦争を終わらせる為!終わらせるには全員の協力が必要だ、手を貸してくれるかい?」

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