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虚空を見る.8

カリア達は去っていった。巨竜に乗って。


黒い影が遥か遠くへと飛んでいき、次第に薄くなって空の青へと溶けた。どのくらいで着くのか。一度くらいは乗ってみたいが、頼んだって乗せてはくれないだろう。


「あー、もう。やっと行った」


ため息を吐きつつ、ようやくナリータが姿を現した。

服についた汚れを叩きながら、カリア達が飛んでいった方向を忌々しげに見詰める。


「なーに?あの人となんかあったの?」


カミーユが訊ねると、ナリータがめんどくさそうな視線を向ける。


「…あの人、カリア・トルゴでしょ?」


「ああ」


カリア・トルゴ。ウォルタリカにしては珍しい名字だ。


「ハベーラって知ってる?」


「ハベーラ? いや、知らん」


カミーユもビキンも知らないと首を振った。


「あの人の本当の名前、カリア・ハベーラって言うの。ウォルタリカの貴族史上最悪の忌み子。ハベーラ家の生み出した悪魔よ。元々ハベーラ家も悪の貴族だから、最悪の最悪」


「…あの人が? そんな風にはまったく見えん。つか何でそんなこと知っているんや?」


「私も貴族だったからよ。モーラ家。潰れたけど。 うちも大概だけど、ハベーラ家って特にヤバくて、人体実験とか、キメラとか、あと人身売買。噂だからこれはどうか分からないけど、鷲ノ爪の原型を作ったって言われてる」


世界的にも有名な人買いの組織の原型を作ったって。


ごくりと隣でビキンが喉をならし、レーニォの顔が険しくなっていた。


「もっとも、もう無いんだけど」


「無い?」


カミーユが不思議そうな顔をする。


「そ!あのカリアがあの家と、その関連する親族全て皆殺しにしたって。ハベーラ家も想像できなかったでしょうね、戦いの為に作られた子供に全滅──」

「──ナリータ」


「な、なによ」


首を振る。


「どんな過去があれど、それは過去だ。今のあの人を見て俺達は決める。そして、どんなことかあっても人の過去を無神経に晒して貶める事は許されないし、あの人のこれまでの人生で行ってきた事を評価する権利は当事者以外には無い」


「………」


ナリータは驚いた顔でこちらを見ていたが、しばらくして開いた口をゆっくりと閉じ、気まずそうに視線を逸らした。


「わ、るかったわ。だからその怖い顔するの止めてくれない? ………これは、噂だけど、ハベーラの罪を償うために鷲ノ爪を潰し回っているって…。噂だからね」


「そうか」


知らずに怖い顔をしていたらしい。

息を吐いて体の力を抜いた。


レーニォも少し複雑な顔をしながら、カリア達の消えていった方向を見ていた。

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