虚空を見る.6
「本当か!?良かったぁ!ずっと心残りだったんさ!」
心底安心したという顔でアウソが言った。
「不思議な縁もあったものね。でも良かったわ、見付かって」
「しかもうちのライハの…この場合、預りっていうのか分からないけど、保護になってるとはね」
「保護っていうか、聞いてる限りではライハがラヴィーノにお世話になっているみたいだけど」
カリアの言葉にキリコが笑う。
「いやいやいや、なんかいっつも助けて貰ってるらしいて。それにしてもあのルキオ戦で良く無事でしたね。聞く限りではなんや悲惨だったと聞いとりますけど」
「ああ、…うん」
「あれは、ただこっち達の運があっただけよ。いくら強くても、最終的には運任せだから」
ルキオ戦を思い出したのか暗い影を落としながらカリアが苦笑した。噂だけだったが、この人がこんな事を言うなんてと、ノルベルトは思った。
実はチクセでの後、カリア達の事を少し調べていた。
青鬼。東の鬼神。青い恐怖。
聞くのはその桁外れの戦闘能力。魔法なしで、更には武器すら使わずに悪魔と渡り合える、化け物。
その弟子であるキリコも鬼の称号を手にし、戦えば戦うほどに強くなっていく怪物だ。
アウソは、まだそこまでの噂や戦闘能力を耳にはしていないが、あのルキオ戦を生き残っただけで『南海の生存者』という称号がつく。あと、これは初めて知ったことだが、アウソはあの人魚と縁を結んだ者らしい。それだけでも、これからどう化けるか分からない脅威だ。
(それにライハが加わってんだもんなぁ。恐ろしいパーティーだぜ)
「………」
「!」
積もる話もあるだろうからと、挨拶もそこそこに下がって様子を見ていたノルベルト達だが、ふと、ナリータの様子がおかしい事に気が付いた。
普段ならわざわざちょっかいを掛けにいくナリータが、こそこそと気配を消して身を隠している。
「なーにしてんだ、お前」
「うっさいよ、こっちに気を向けないで」
しかも口が更に悪くなってる。
同じくウォルタリカ出身なら何かしら話もあると思ったのだが。
「いつ発つんですか?」
「知り合いが到着するのを待っているんよ。着き次第ね」
「んー、でももうすぐ着くかも」
キリコが空を見ながら言う。
空?飛鳥馬を持つ知り合いでもいるのか?
「きっとびっくりするはずさ。中々見られんから」
「?」
頭を傾けるレーニォ。
その時、何かの羽ばたきが聞こえてきた。巨大な、しかも複数の羽音だ。
辺りがざわつき始めた。
「来た来た」
キリコが立ち上がり、空に向かって手を振る。ノルベルトはキリコの視線を追って、驚愕した。
巨大な竜がこちらへと飛んできていた。
『キリコーー!!!』
いくつもの弦を束ねた鳴き声と共に声が聞こえた。
荒々しい声だ。もしや竜の声なのか?
「ここに降りないで!!!あっちに広場があるから其処に!!!」
『分かったーー!!!』
キリコの指差す方に竜の群れが方向を変えた。
「………何あれ」
「…不本意だけど、アタシの旦那候補。ったく、人に化けてから近づいてって言うの忘れてるじゃない」
どういうこと?




