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悪夢.11

間に合わなかった

明日あげます

「貴方は元々こちらの人間ではない。故に本来ならば魔力を必要としなくても生きていける筈だけど、二つの魂に引っ張られ、体の構造が変わってきてしまっている。それは自覚しているかい?」


「薄々ですけど…」


何となくそんな感じはしていた。

そりゃ此処に来て生活の何もかもが変わってしまったんだ。今さらそんなことで驚く筈もない。


「今回はまだ貸すかに残った魔力で息を吹き返すことができたけど、次は恐らくないと思いなさい。それと、脇腹の傷の事だけどね」


まだじくじくと痛む脇腹。こんなに痛みが続くなんていつ振りだろうか。


「相手の持っている武器、あれは強力な神聖魔法で浄められた剣だ。悪魔を切り伏せ、切った箇所の能力を限りなくゼロにする事ができる。貴方のその傷の周りには神聖属性の魔力が巻き付いて、混沌属性を寄せ付けなくなっている。結果、エルファラの回復能力も、ネコの回復能力も弾かれて、そこだけただの人となっているんだよ。でもだからといって反転の呪いは消えるわけではないから、神聖魔法で治る訳ではない。ここまで聞いてどういう事だか分かるね?」


脇腹をさする。包帯の上からでも熱を持っているのがわかる。ここだけ、ただの人。神聖魔法を使っても治る訳ではない。

それはつまり、此処に召喚される前の人間に戻るということ。


「………」


魔法が存在しなかった世界の人間。

元の居場所。


何故だろう。

一時、あんなにも帰りたかった場所は遠く感じ、魔法が無いことが考えられない。


あの剣で切られれば、いや、心臓を刺されてでもしたら、オレはこの魔法の世界で魔法の恩恵にあやかることなく、魔法が存在してないただの人間と同じように死ぬ。


あっさりと。


その瞬間、ゲルダリウスの黒い壁が割り込む前の光景が脳裏に甦った。

互いに構えた剣の切っ先は、互いの胸を狙っていた。

もしあのまま、ゲルダリウスが割り込む事が無かったら?


交差する剣が互いの胸を貫き、恐らくそのまま死んでいただろう。


奇跡は起こらず、ただの人として。


そうしていたら、ネコはどうなっていた?エルファラは?


「……はい」


ユエの言葉に頷いた。


「脇腹を傷付けた剣は、貴方にとっての天敵。もしかすると、これから戦う敵の中に、同じような剣を持つものがまだいるかもしれない。相手が魔族だからと油断してはいけないよ、その油断はいずれ身を滅ぼす事になりかねないからね」


「充分に気を付けます…」


そうだ。確かに油断をしていた。

いくら無茶をしても、回復能力があると。


『大丈夫だよ。つまりは剣に当たらなければ良いんでしょ?カリアも言ってたじゃん!』


──いくら攻撃が強くても、毒を持ってても、当たらなければ意味がないんよ。


シルカを出てチクセに向かう途中、何度も小型の生物の攻撃で毒を食らうのでカリアにコツを訊ねたら返ってきた言葉だ。

懐かしいな。


考えてみれば、カリアもキリコもアウソも、回復能力を持ってはいない。ましてや神聖魔法で治療すらしていなかった。確かに少しは回復が早かったかもしれないが、それでも普通の人よりは少し早いくらいに過ぎない。


それでも、高ランクハンターの地位にいるのは、決して自分の力を過信せずに、慎重に、避ける事のできる攻撃は全て回避していたからだ。


そうだ。


怯えることはない。

つまりは当たらなければ良いだけなんだ。


「そうだな。ありがとう、ネコ」


『エヘヘヘへ』


ネコを撫でる。


その様子を見ていたテッドが拳を突き出す。


「ま!それでも怪我したときは言ってくれ!神聖魔法は効かなくても薬は効くんだろ?(スキャバード)はハンターの集団だ!魔法無しでもある程度の傷を治す術なら持っている。なぁ?モントルド」


「そうだそうだ!つかそもそも剣を振るう前に懐に入り込んで腕を狙えば良いしな!!熊と同じだ!」


「いや、ちょっと違うだろう」


モントルドの言いたいことがわかって笑う。

そうだ。結局のところ敵が何であれ、先に動けなくさせれば良いのだ。


「ライハー、これなんだ…、あ。すいませんお話し中でしたか?」


扉からラビが入ってきた。包みを持って。


「いや、お話は今終わったところだよ。その包みはもしかしてあれかい?」


ユエがラビの持つ包みを指差す。


「ええ。そうです。そうだ!ユエ様も見てもらっても良いですか?」


「丁度良い。こちらもそれについて訊きたかったことがあったからね」

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