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押し込め!!.【ルキオのふたり】

ルキオ。

自然豊かだった地は見る影もなく薙ぎ倒され、あちらこちらで黒煙が上がっている。

王都から少し南に行った所に複眼を持つアザラシとムカデが混ざったような巨大な生き物が横たわっていた。その大きさは山二つ分程はあり、その回りで夥しい死体が転がっていた。


ルキオの戦況は日に日に悪くなっていく。それは、悪魔が戦い方を変えた所為だった。


連合軍は多種の人種からなる軍で、人族からはハンターやルキオの海人、プローセルンの鳥馬の軍、カリアの所属する(スキャバード)、ジュノやハンターの獣人(ガラージャ)、グレイダンが集めてきたはぐれ竜、アケーシャから頼まれてやって来た人魚達、王族の契約で助けに回った龍達。


海と空は封鎖し、陸地にも魔物の姿も少なくなってきた時の奇襲だった。


夜突然、海の向こうからこの巨大な生物が飛んできて、暴れたのだ。夜だった為、警告を出すのが遅れて多大な犠牲が出た。特に被害があったのがキャンプで休んでいた人達だ。


それでもカリアを初め、三日三晩戦ってようやく倒した頃には、もう誰が生きてて誰が死んでいるのか分からない状態だった。








湯浴びをしようとやって来たカリアだったが、連日休むなく戦い続けて疲労はピークに達していた。ボンヤリとしながらも、桶のお湯にタオルを浸けてからだを拭うのもしんどかった。


貴重なお湯が体を拭う度に赤く染まっていく感じがする。

実際、負傷した箇所が治りきっていないから、タオルが当たって滲んだのだろう。


「師匠」


カラリと音がして、キリコの声がした。

交代の時間が被ったのか。しばらく聞いてなかった声に少しホッとした。


「背中、流してあげる」


カリアは振り返り微笑む。


「じゃあ、お願い」


背中にじんわりと温もりが広がる。水が傷に染みて痛みはあるが、心地よさが勝って気にはならなかった。キリコが出来る限り傷を避けてくれているからもあるが、ここ最近の死者の多さに心が沈んでいたのが、ほんの少しだけ癒された気がした。


「大分死んだね」


キリコが言う。


「…………、そうね」


それに呟くようにカリアが返した。


見たこともない大ムカデが飛んできたのはほんの一週間前の事だ。

山を崩しながら進むムカデを倒す為に、連合軍の1/3が被害にあった。カリアもキリコも大怪我を負いながらも何とかなったが、ルキオは更に無惨な姿に。山が均され、人も木も均等に潰された。

遺体を見付け出して埋葬してやる暇すらない。


それどころか生き埋めになった奴もきっといるのだろうが、全員を見つけ出してやるほどの人を割いてやれない。悔しさで一杯だ。


唇を噛み締めながらも、振り返るより前に剣を振り上げないといけないのは分かっている。


なので、カリアは出来るだけ前だけを向いているのだが、一人になれば一気に波が押し寄せてくる。

みんな頑張っている。分かっている。


アウソもアケーシャの一族として人魚達と必死に海を守ってくれているから、この程度で済んでいるのも理解は出来ているのだが、少し疲れた。


魔法で傷や疲労は癒せても、心の疲労は癒せない。


だけどここで潰れれば、ルキオを足掛けに大陸の東側が終わる。ハシやウヴラーダが攻撃を受けていると聞いたが、あそこは大丈夫だろうか。


「はい終わり」


「ありがとう、キリコもやってやるよ」


「ほんとに?ありがとう」


キリコが笑顔を見せる。こういう時、キリコは強いなと思う。昔の事が原因か、人種的なものかは分からないが、一回戦闘モードに切り替えると死と言うものを割り切る事が出来る。例えそれが味方の死でも。しばらく司令塔として動いていたカリアよりもキリコの方が前線にいることが多いから、仲間の死を何度も何度も目の前で見ているはずなのだ。


だが、キリコは、仲間の骸を焼くときに、静かに一筋の涙を流すだけで終わる。その顔は悲しみと、よく戦ったと誇らしげにする表情が入り交じった複雑なものだった。


そんなキリコを冷たいとか、情がないとかいる奴もいるが。


(きっと、こっちが死んだときも、同じように涙を一筋流すだけなのだろう)


悲しみと誇らしげな表情が混ざった顔で。


それはそれで良いかもしれない。


「何で笑ってるの?」


キリコがこちらを見て訊ねてきた。


「ん?ちょっと自分の最後はどうなるのか考えていた」


「……、考えた事無かったわ」


「普通は無いよ」


「もし死んだらどうしてほしい?」


その質問にしばし考え。


「特に無いね。出来るならいつも通りで」


「んー、考えとく。じゃあアタシが死んだら、焼いた後に木を植えて」


「木を?なんで?」


思いがけない答えに首を捻った。ギリスの人や獣人(ガラージャ)はそうやることが多いが、もしやアシュレイも同じなのだろうか。


「本当は島の火の海に還されるんだけど、もう戻れないし。だったら獣人(ガラージャ)が言う、自然の一員に戻るのも良いかと思って。ほら、基本石とか剣とかなんか立てるじゃない?でもそれって寒そうだし、だったら森の中の方が暖かそうじゃない?特に此処だったら一年中快適よ」


「なるほど」


それは良いかもとカリアは思った。

アイツの守る地で眠るのも、それはそれで幸せなのだろうな。


「こっちもそうしてもらおう」


「樹葬同盟成立ね」


「アウソもやるかね?」


「あいつは海に還されるでしょ、アケーシャだもん」


「そっか」


気が付けば心の疲れは癒され、自然な笑みが浮かぶようになっていた。


からだを拭い終えて片付けをしている時に、キリコが思い出したと顔を上げた。


「そういやライハも元気そうだって?」


「ギルド通して聞いたよ。何でも遊撃隊の隊長してるって」


「ゆう…。なにそれ」


「聞いた話だと、ルツァ、今は名前が変わって変異体を倒しまくる部隊だって。防衛軍の連中は何作ってんだか」


「役に立てば何でも良いわよ。次会ったときが楽しみだわ」


どう弄ってやろうかと楽しそうなキリコを見て、カリアも晴れやかな気持ちで髪を纏めた。


次会ったとき、ちゃんと胸を張れるように頑張らないとね。

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