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戦場へ.12

赤い山が盛り上がり、中から息を荒げる男が出てきた。オレです。何とか最小限の範囲を黒剣でいなして大怪我をすることなく生き延びることができた。


(そもそもこれに似たようなこと部下にやらせてるからオレが出来なくちゃお笑いなんだけどね)


それでもやっぱり死ぬかと思った。


『ライハ大丈夫?』


ネコが心配そうな顔で飛んでくる。

特に怪我もなく元気そうでよかった。ソンヤがマウンテンタートーに向かって雷で大穴を開けたときに少し心配になったが。


「まぁね、それにしても一網打尽に出来たかな?」


辺りを見渡しても動くものはいない。どうやら残りのも巻き添えになったらしい。仲間にも関わらず扱いが酷かった奴等には同情するが。


服に付いた破片を叩き、少し歩けば足下でバリバリと赤い刃が砕ける音がする。


「さて、そろそろ合流しようかな。強いのがソンヤだけとは限らないし」


『そうだね』


ネコに頼んで引っ張り上げて貰おうと思ったら、雄叫びと共にズタボロのソンヤが瓦礫を蹴散らしながら飛び出してきた。擬態だと分かってはいるが、やはり自分がボロボロな姿を見るのはいい気分ではない。全体に刃が突き刺さり、左腕なんか皮一枚で繋がっているといっても過言ではない。繋がっているところを軸に回転している様はグロいとしか感想が出ない。


『よくもやってくれたな…、覚悟しろよ……!!!!』


ブクブクとソンヤの身体から泡が噴き出してくる。その泡は粘り気を持っており、血の刃を巻き込んで増大していく。泡は止まることを知らないのか、穴を埋め尽くさんとばかりに増大していった。


「ネコ急げ!!」


『分かってるよ!!!』


胴体に尾が巻き付き勢いよく飛び立ったのと、刃付きの泡が穴を埋め尽くしたのはほぼ同時。頭上には瞬間的に凍らせたため鋭利になっている血の刺を避けつつ上昇する。その下では、ソンヤがこちらを睨み付けながら口元に黒いカプセルを放り込んでいた。


『逃がさない逃がさない逃がさない、絶対に殺す』


ガリッとカプセルを噛み砕き飲み込むと、ソンヤの魔力が膨れ上がった。空気がビリビリと細かく振動し、ソンヤのオレに対しての感情が叩き付けられてくる。それは純粋な殺意だ。


久し振りのその感覚に思わず喜びの感情が沸き上がる。


もともと少し戦闘狂になりつつあるのは分かってはいたが、エルファラの力を貰った辺りから更に酷くなった。魔法を思い切り撃てないストレスの反動が来ているのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。オレがエルファラの魔力の性質に引っ張られている。


悪魔というものは目には目を歯には歯をという言葉がしっくり来るほどの生き物のようで、怖いと思う前に叩き潰したい衝動が先に来る。それを理性で押さえているが、ここ最近全力を出してなかったから、久し振りの全力で理性の(たが)が外れ始めている。


少しぐらい良いだろうと、思う。それを押さえていた手が、殺気が込められた攻撃によって外れた。


『ライハ!?』


「少し離れてろ!!」


ネコの尻尾を外し空中に躍り出ると、赤い刃を纏った泡の怪物が口を大きく開けて襲い掛かってきた。

剣の先から氷の欠片が削れてキラキラと光を反射している。その破片が泡にぶつかり、次の瞬間大爆発を起こした。飛んできた刃が突き刺さったり掠めたりしているが、そんなことはどうでもいい。それよりも、爆発によって付着した小さい泡が付いた箇所から魔力が吸いとられていっていた。


遥か上空にネコが避難をしていたから幸い泡が当たらなかった。良かった、これがネコもに当たっていたら大ダメージだった。ネコに物理攻撃は効きにくい。それは形を変幻自在に変えられる性質と、体が魔力で出来ているからだ。

質量を持っていても、ネコは元々純粋な魔力の塊だ。

勿論痛いし、不意討ちな攻撃なんかはダメージを負ったりするが、それも痛いだけで体には傷がつかない。

だけども魔力を吸い取るのはネコにとっては致命傷にもなりかねない。


「泡に触ると危険だぞ!!魔力が吸いとられる!!」


『ええ!?』


危うく泡に尻尾で攻撃をしようとしたネコが慌てて尻尾を引っ込めた。


雷を放ってみたが、効き目が薄い。


『血モ魔力モ吸イ尽クシテヤル』


元の姿になったソンヤが泡に包まれながら追い掛けていた。といっても体の半分以上が泡に飲まれていて最早何処が泡で体なのか境界線も怪しい姿になっていたが。ソンヤが手を此方に伸ばせば、泡が分裂して巨大な腕になって伸びてくる。最早笑うしかない。


迫る泡にタイミングを合わせて、纏威を発動させ剣に電撃を纏わせて振るう。目の前が真っ白になるほどの大爆発でからだが爆風によって吹き飛ばされる。ソンヤも爆風によって仰け反っている。

風に弱いのか?


『おっと』


「!」


ボスンと地面にしては柔らかいものに着地をした。

かと思えばそれは大きくなったネコの胴体だった。爆発でだいぶ上へと飛ばされたのか。


『ねぇ、あの泡に触らなければ良いんでしょう?ネコも戦いたいんだけど』


ブスッとした顔でネコがいう。少し怒っていた。自分ばかり戦いやがってという顔だ。


「じゃあさ、ちょーっと危ないけどお願いしても良いかな?」


『ふーん、危ないのなんか何時もじゃん。問題無しだよっ!!』


グンとネコの体が斜めに傾き急降下。そのスレスレをソンヤの泡の腕が通過していく。


ソンヤはなにやら尋常じゃない様子で、血走った目に涎をダラダラ滴ながら次々に泡の腕を作り出しては、オレ達を捕まえんと伸ばしてくる。だが、ネコは鳥も驚くような機動でスルスルとソンヤの腕の間を抜け、隙をついては纏威の電撃を付属させた剣で凪ぎ払った。爆発によって飛んでくる泡がたまに付着したりするがネコの力は衰えない。


こいついつの間にこんなにも強くなったんだ?


『チョコマカト…!!!』


迫り来る腕を避けつつ泡の刃を見て経過を見る。ソンヤはまだ気が付いていない。


『ライハさっきからなんか企んでるでしょう』


「えー?ひみつー」


そう。オレは現在進行中でとある作戦を遂行していた。それは、温度を上げること。火焔属性ならすぐだったが、あいにくオレは電撃と氷結位しか攻撃としてまともに操れない。

時に泡というのは温度が上がれば形を保てなくなるのをご存じだろうか?血の刃で冷やしているが、それを雷によって熱を上げ、振動によって粘り気の多い液体を下に落とす。ついでに体積も削る。


なにやらドーピングで力が増しているのは分かる。泡の属性なんて聞いたこともないが、魔力によって作り出しているのなら削ればいい。こっちは少しばかり魔力を削られてはいるけれど、纏威のお陰で魔力の節約ができているし、何より相手が正気じゃない分やり易い。


現にソンヤは二回りほど縮んでいた。


再び大爆発。刃は殆ど溶けて、少しの振動を与えるだけでも爆発を起こす。


そろそろか。


ーードゴォォォォォ……


『!!!?』


「!」


突然遠くの方で大量の煙が上がってソンヤの意識がそちらに逸れた。ラビ達が上手くやってくれたのか。どちらにせよ絶好の好機。


「ひゅっ」


ありったけの魔力を使ってソンヤに冷気をぶつけた。


『カッ!!』


血液を凍らせるなんかよりもはるかに簡単に泡の体は凍り付き、ソンヤの上半身も凍って動けないようだ。

あとはこのまま雷で粉々にすればいい。


『ア……グガ……』


しかし、ソンヤは最後の足掻きかは知らないがまたオレの姿に切り替える。自分の姿だからと攻撃を止めるとでも思っているのか。


いや、と心の奥底で待ったを掛ける声があった。

このままこいつを拘束して、あの種について吐かせるのが良くないか?と。正気が解けるのかは定かではないが人質に取り、仲間の悪魔に吐かせる。ここまで考えて首を振る。仲間を巻き添えにする奴を人質にしても吐くとは思えない。ならば解剖か?とおぞましい考えが浮かぶ。

確かに構造は気になるが、そこまでゲスになった覚えはない。


『ライハ?どうーー、危ない!!!』


「うおっ!??」


突然ネコが急上昇して危うく落ち掛けた。


なんだと声を掛けようとして、ソンヤの上半身のすぐ下を赤い三日月型の光が通過した。

ソンヤの泡の体が斜めにズレ、落下していく。それを受け止める者があった。


黒い翼を持つ金色の髪の女性。額には控えめながらも角があり、赤い瞳が悪魔であることを証明していた。


『なにしてンのソンヤ。仕事は?』


『………ぐ………チヴァ……ヘ……ナ』


『はーあ、まったく』


女性がこちらを向いた。


『今回はこっちの敗けでいいから、ちょっと消えて』














次の瞬間、ネコもろとも吹っ飛ばされた。

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