戦場へ.4
こんにちは、僕の名前はダリウスと申します。遊撃隊第四班、通称ラビ班に所属しています。特技は速筆で、特訓のお陰で、魔力で同じ魔方陣を一秒間に3個連続で生成することができます。
駿馬の試験で落第しましたが、この特技のお陰で隊長に拾い上げてもらいました。
「第四班揃いました!!礼!!」
「よろしくお願いいたします!!」
一同敬礼。
ドン引きしている者、感心している者、欠伸をしている者。と、偵察隊の反応は様々。
ラビ副隊長が前に立つ。手に紙とペンを持って。
「それでは各自、魔方陣の気配を感知しつつ結界の状態を把握。ルツァと遭遇した際は緊急笛を鳴らし、出来る限り逃げろ!!」
「はっ!!」
遊撃隊の方針はもっぱら“命を大事に”である。
「よろしくお願いします」
頭を下げるダリウス。
「よろしく」
目の前にはエミリアナ、くじ引きの結果エミリアナと組むことになった。担当は東の端、途中まで第三班の駿馬に二人乗りさせてもらい、そこからは歩いて調べる。
目で見えにくい結界を調べるには、歩いて調べるのが一番だ。
だが、エミリアナ、目を合わせてくれないばかりか必要なこと以外話さない。気まずい。最近は任務に集中しながらも仲間達とバカな話をしていたりするので沈黙が辛い。
何とかして会話がしたい。
「エミリアナさんってハンターなんですよね。武器はその銃ですか?」
「はい。………そっちはその剣?」
「!」
会話をしてくれるらしい。
「前はそうでしたが、最近は魔法を使う事が多いです。ラビ副隊長が厳しくて、もう条件反射ですね。あ、隊長も凄いんですよ、剣も早いし剣がなくても強いんですけど、魔法が桁違いで、基本氷の塊を撃ってくるんですけど、雷系は強すぎてルツァも一撃です」
ダリウスの目が輝く。
だが、エミリアナは疑いの目を向けていた。
「それ本当?自分たちハンターでもルツァを倒せるのはごく僅か。大抵は逃げるしかない相手。できるのは高ランクのーー」
そこまで言ってエミリアナが、首を傾けた。
「そういえばあんた達の隊長ってライハ…って言ったっけ?」
「? そうですけど」
「もしかして羅刹のライハだったりするのかな」
「ラセツってなんですか?」
「少し前にネームドになったパーティー。確か全員が高ランクハンター」
「それは凄いんですか?」
「皆高ランクなのは珍しい。一つのパーティーに一人いても凄いこと」
「へぇー!後で訊いてみます!」
少しは打ち解けたようで、少しずつ話ながらしばらく行くと、とある場所で違和感があった。地面の色が違う。設置型魔方陣には意識逸らしの魔方陣が施されている、それは魔方陣が背景に同化するようにボヤけさせる為のものだ。しっかり見れば道端の何でもない小石が面白い形に見えるなと、その小石に意識がいくが、しっかり見なければただの道端の小石と同じ感じである。
なのにダリウスが気付いたという事は、そこだけ何かが違うということ。恐らくそこが結界の穴だ。
「見つけました」
「どこ?」
「そこです」
エミリアナが目を凝らすが、何処だかわからないようで、全く検討違いの方向を向き始めた。本ギルドに箱で届いた魔方陣を持ってきて設置したのは守備隊だからエミリアナは何処なのか大まかな場所さえ良くわかっていない。
結界は出来る限り見えないようにしている。見えるものもあるが、設置すれば魔方陣も結界と同じく不可視になるので仕方がない。
もちろダリウスも見えてはいないが、ラビ副隊長の光彩魔法での猛特訓のお陰で、見えていなくてもそこに何かがあると感じられるようになっているだけである。
「本当にここ?」
一応確認の為に目元に光彩魔法の“霧晴らし”の魔方陣札を貼り付けると、見えなかった結界と魔方陣が薄く光ながら見えるようになった。
「間違いありません」
そこだけがひび割れ穴が開いている。
使用時間が短いのが辛いが、効果が切れる前に返し結界魔方陣を描き写さなくては。
ダリウスが懐からメモ帳を取り出すと、素早く描き写した。
「あとは印を付けて……と」
魔力を籠めた杭を突き刺す。隊長は魔力を見ることができるので、これで間違える事無く辿りつくだろう。任務完了だ。
立ち上がろうとした時、エミリアナが顔を上げとある一点を見詰めた。
「来た……」
「ルツァ?」
「そう、ルツァ」
身を低くし、エミリアナが指差す方を見れば虎に似た生き物がいた。だが、背中の模様は蝶が羽を開いたのに似ており、口からは蜘蛛の左右バラバラに動かせる牙、尾は狐みたいに広がり、本来生えている筈のない黒く歪な角が生えていた。
「あれは……タイガーフォックス?」
「の、亜種。色が違う。でもルツァには違いないから逃げる」
エミリアナが身を低くして移動していく。幸いまだルツァはこちらに気が付いていない。ダリウスも後に続くが、心臓が痛いくらいに脈打っていた。
ネコさんにボロボロに鍛えられていたが、やはりほんもののルツァが二人だけの時に遭遇すると恐怖のレベルが違う。仲間といればそれほどでもないのに、如何に自分という人間が一人だと弱いものだと思い知らされる。
(落ち着け、訓練通り意識逸らしで気配を消して撤退するんだ)
荒くなる呼吸を落ち着ける。
「エミリアナさーー」
意識逸らしの魔方陣を手渡そうと思い、声を描けようとして、視界の端にルツァがこちらを向いて尾から何かを発射した。
「エミリアナさん!!」
「!!」
ほぼ条件反射でエミリアナを庇うと防御魔方陣札を取り戻し、魔力で線を引き掲げる。すぐさま結界が展開し、直後硬いものがぶつかった。毛が高質化して針になったものが突き刺さっていた。返し結界と一緒にあった防御の結界を貫いている。長くは持たない。
「毒針!?」
ルツァが咆哮しながら突進してきた。ここは結界が破けている。
「逃げろ!!」
またしても尾から針が放たれる。それを魔方陣札で防ぎながらダリウスは笛を取り出し、力一杯吹き鳴らした。甲高い音が空に響き渡る。
これで仲間が来る。
「おい!うしろ!!」
「!!」




