戦場へ.3
ラビ以外のメンバーの頭にハテナが浮かぶ。
「実はオレの使い魔、悪魔なんですよ」
「なんだと!?」
トビアスが腰を浮かせかけるがそれを制す。
「元です。今は何も関係ありませんし、むしろ心強い味方です」
「……それは本当か?」
疑いの目を向けるトビアスだが、オレの隣でさも当然とばかりに頷くラビを見て、ひとまず信じてくれたのか、腰を下ろした。
「本当です。しかしネコとは強い契約をしているので、ネコのダメージがオレにも来てしまいます」
割りと本気な顔で言えば。
「うーん。遊撃隊の隊長は色々ブッ飛んでいるという噂は山ほど聞いてきたが、想像以上だったようだ」
「恐れ入ります」
一体どんな噂が流れているのか問い詰めたいところだが、話が脱線するのでやめた。
「まさかここで問題が発生するとは。エリオットさん。結界は地下も駄目なんですかね?」
ジェライスが訊ねれば、エリオットが残念そうに首を横に振った。
「残念ですが使えませんね。説明文に地下にもある程度の深度には干渉すると書かれてましたし」
「そうですか…」
ギリスの魔方陣は変なところで付属効果が高性能だったりする。返しがそうだ。
そこでラビがそういえばと切り出した。
「此処に来る前にルツァと戦ったよな。どっか突破されて穴が開いているんじゃないか?」
「それだ。そこ探し出して通った方がいいな」
「え"!?」
まさかもう結界が破られているのかと顔色を悪くしている三人だが、オレとラビにとっては都合がいい。
「ルツァ、いたんですか?」
「え、はい。倒してきましたけど」
「……………さすがは狂撃隊だ………」
ぼそりと何か聞こえたが、あえてスルーした。
今やルツァ少数は遊撃隊にとっては敵ではない。ただの獲物だ。訓練で何度もルツァを一撃で屠るネコの相手をさせているんだ。人間、怖いことがあった場合、より怖かった経験と比べる事がある。遊撃隊にとって一番の強敵に今んところネコが君臨しているので、ルツァが相手でも冷静に動ける。
「じゃあ我々が探してきましょう」
エミリアナが挙手した。
「もしルツァに遭遇したとしても、自警隊や守備隊よりも小回りが利くから逃げ切れるから、より確実に破れたところの情報を持ち帰れると思う」
トビアスとジェライスが少しムッとした顔をするが、その通りなので何も言えないのだろう。こればかりは仕方がない。それぞれ得意分野がある。
「それならうちのラビ班を付けていいですか?」
「なんで?」
「せっかくなので、返し結界の魔方陣の形状を記憶して練習してもらうのと、万が一怪我をしても問題ないように、という感じで」
それにジェライスが驚きの声をあげた。
「!? 遊撃隊は魔方陣を描く練習をさせているのですか!?」
通常魔方陣を描く練習などさせない。大事なのは協調性と馬術に剣術。そんな暇があったら剣を振るえと言われる。理由としては魔力が少ない上に剣があるのになんで時間のかかる魔方陣をわざわざ覚えなくてはならないのか、時間の無駄だ。という事。
しかしオレはあえて描かせた。
「ええ。前線で負傷した場合、衛生兵が間に合わない事も考えて、線一本引けば使用可能な状態の魔方陣札を数種類常備させています。オレ達はより多く戦場を巡るつもりなので、どんなことになってもせめて自分の命くらいは自分で守らせようと思っております。もちろん余裕があれば仲間を守らなければなりませんが、自分の命すら守れないのに他人の命を守れるとは思いません」
カリア達と旅をしていて戦闘中何度も「あ、死んだ」と思う事が多かった。高ランクハンターなのに。高ランクハンターでもこうなのだから、それ以外で戦闘中「あ、死んだ」だけじゃ済まない。
今は何とか鍛えてなんとか数でカバー出来ているが、減ってしまえばそれまでという事だ。ならば数を減らさないためにもオレが教えられるものは全て教え込み、簡単には死なせないようにする事が、隊長として、彼らを引っ張り命を預ける立場であるオレの役目だ。役目ならば責任を持って全うする。
でも育てるためなら死なない程度にしごきます。じゃなければ成長は出来ない。
それでも不安そうなエミリアナの肩にトビアスの手賀置かれた。
「大丈夫。彼等ほど頼れる部隊はいない」
特に緊急事態においては、と一言が加えられていた。
そういう訓練を嫌というほど行いましたので。
「ではよろしくお願いいたします」