隊長!.7
軽い面接を行った。といってもオレは姿を表さず、エドワードが面接官という感じで机に座り、オレとラビ、ネコの二人と一匹が光彩魔法で作った壁の裏側で更に意識逸らしの魔法陣で合否の紙を持って待機。後は悪意の意図があるかどうかをネコが見極め、オレが立ち振舞いを見る。礼儀とかではなく足の運び方の方だが。
「失礼します。フィランダー・シンプソンです」
そこからはいたって普通の面接だ。まぁ面接といっても会社の面接とは違い、資格や学歴を聞くのではなく、剣の流派や戦歴とか。
ここリオンスシャーレは数多くの流派がある。だが、今回、オレはその流派の型を叩き潰す。何故なら遊撃隊はいわばゲリラ戦を得意とする隊だ。想定外の事態に対応するためには型を越えなければならない。勿論型は大切だ。大切にしながらもそれを踏み台にしなければ次にいけない。
「失礼します」
しかし、やはりと言うか、腐った卵みたいなのもいた。ガチガチの真面目な殻を被ったドロドロに腐った奴。そして、これは勘だがスパイっぽいのと、刺客らしき人。
『あいつアウト』
「だな」
「そう?なんか良さげじゃね?」
『服の中に暗器仕込んでいる。ベルトと靴とあの眼鏡も』
「……武器持ち込み禁止って言ったのに。ダメだな」
「何だっけ。命令無視的な奴でバツ」
しかも皆揃って刺客連中は完璧な変装。最近来なくなったと思ったのに、どこで情報仕入れた。
「だいぶ削げたかな」
「…………」
資料を見ると1/4が弾かれていた。
なんだがエドワードの顔が強張っているが、このガバガバな管理体制に問題があるのは軍の問題なのでそちらで何とか対処をしていただきたい。
「後は、身体能力か」
せめて30人以下くらいに纏めたい。多ければいいって訳じゃない。隠密行動するのに目立ってどうするんだって話だ。
「では、グラウンドに集めていますので」
「ありがとうございます」
しっかり制服に着替え、支度を整えると鏡の前で自分の姿を見て思う。一年前、同じように鏡の前で見習い兵士にしか見えない元勇者がいたが、今ではすっかり体つきも変わって制服が似合うようになっている。
「たった一年で出世したなぁ」
見習い兵士から隊長だぞ。人間変わるもんだ。
□□□
フィランダー・シンプソンは緊張しながら隊長の登場を待った。噂によれば大分若い隊長で、ハンターから選抜されたらしい。そして。
「おい聞いたか?さっきの面接で全体の1/4が落とされたらしい。しかもあの優秀なロベルト・プロバートも落とされたんだと」
「嘘だろ?」
「本当だって、さっきあっちでロベルトが結果見て発狂していたのを見ている奴がいるんだ」
そう。うちの軍で一番家柄も能力も優秀なロベルト・プロバートが落とされたのだ。原因は不明。ロベルトが落ちたのなら間違いなく自分は落ちてるなと思っていたのだが、何故か採用された。ロベルトは「こんな隊はクソだ」と罵っていたが。
朝礼台に誰かが上がる。ここでは珍しい黒髪の人で、隣には桃色の髪の青年が並んだ。
「えー…と。オレが隊長のライハ・アマツです」
全く隊長らしく見えない。どちらかと言えば同僚とかにいそうな感じだ。それほど若い。
本当にこの人が隊長なのか?ちゃんと勤まるのかすら心配だ。なにせフィランダーの知ってる隊長は基本おっさんなのだ。
「早速ですが、皆さんには試験を受けてもらいます。試験内容は至って簡単です。駿馬に乗って、山を走って、戦うだけ。遊撃隊は普通の隊が行けないところを行き、戦況を見て臨機応変に素早く動く隊です。その為、予想外の事態になってもすぐさま対応し、生き残れる人を望みます。なので、生き残る事ができなさそうと判断した者は容赦なく落とします。意見がある者は聞きます。落とされた中でもそれでも戦いたいものは来てください」
「?」
何を言っているのだろうと思った。基本中の基本で落ちる奴なんかいないだろう。もしかして軍人を見下しているのか?僅かな不信感を抱えながらフィランダーは指示されるまま割り当てられた駿馬に乗った。
そこに青毛駿馬に乗った隊長が現れる。
青毛なんて乗りこなす奴ほとんど見かけないのに。フィランダーは純粋に驚いた。
「では門からグラヴェ街まで一刻半以内で行けた者を第一試験の合格者とします」
ざわつく。ここからグラヴェ街までは駿馬で飛ばして二刻は掛かる。半刻分更に飛ばせと言うのか!?
「オレも一緒に走りますので頑張りましょう」
張りの無い顔で隊長。だが、ここからフィランダーの地獄は始まったのであった。