『対話』.4
エルファラという悪魔は見た目およそ10いくかいかないかの見た目である。
そして不思議なことに、性別すらわからない。
少年と言われればそう見えるし、また少女かと言われてもそう見える。パーツは同じなのに不思議なことだ。
『それにしても、何だろう、先程までは悲しくて悲しくて堪らなかったけど、今だとだいぶ落ち着いた。何かした?』
「今『対話』の魔法で、オレの中にいる悪魔と会話が出来るようにしてくれてますが」
関係あるのか?
しかしオレの答えにエルファラは成る程と納得した。
『『対話』の場を設けてくれているのか。人も魔族も落ち着いて話が出来るように、穏やかにしてくれる効果がある、と聞いた』
「へぇ」
そんな効果が。
反転の呪いが掛かっているのに良く掛かったな。
確かに見渡してみると夢の中じゃ真っ暗闇だったのが明るい空間へと様変わりし、天井からは白い布野が無数に垂れ下がる。しかし天井は闇に包まれていてどうやって下がっているのかも、どれくらいの高さなのかも分からない。
床も白いがなんの材質で作られているのか分からない。そしてこれも途中から暗闇になっていて、オレのいるところからドーム状に明るくなっていることがわかる。
『で、君の名前を聞いてないけど』
「ライハ。エルファラ、現状を何処まで理解していますか?」
『さぁ?何かに封印されたことくらいしか覚えていない』
「そっから更にオレの体の中に居るってのは?」
『初耳だな。ああ、道理でボクの領域に入ってこられる訳だ。普通、力のある同胞でも無理なのに、変だなぁと思った』
腕を組ながらウンウンと頷く。
『とすると、お前は宿主って訳? ふふっ。寄りにもよってがボク宿るなんて…、運がない』
ニヤニヤとこちらを見て笑うエルファラ。子供の姿だが何とも嫌な笑い方だった。まるで色々見てきた大人のような。いや、そもそもリトービットの様な例もあるわけだから、見た目イコール年齢ではないのかも知れない。
『それで?何?ボクに何か用があるから対話をしに来たんでしょう?まさか本当に慰めるために来たの?』
「本当は、ずっと泣いてて気になったから来た。それが最初。で、対話の奴では、魔法使う度に困った現象が起きるから交渉しようと思ってきた」
オレの答えにポカンとした表情を見せるエルファラ。何かおかしなことを言ったつもりはないのだが。
『まさか本当に慰めるために来たとは、とんだお人好しだね』
「わるかったな」
『いや、気に入った。……まさか本当にそうだとは思わなかったけど。ボクが宿ってからどのくらい経った?一月とか?』
「うーん、多分もうすぐ一年かな」
『一年? あはははは!!そうなのか!!凄いな!!ボクに宿られておきながら一年近く呑まれてないなんて、とんだ才能の持ち主だよ!! 何? そういう血筋とかなの? それとも宿し慣れてるとか?』
「慣れてるといえば慣れてるかな。既に君とは別にもう一匹いるし」
『これは凄い!!!あははははは!!!』
エルファラがツボに嵌まったらしく腹を抱えて笑いだす。目に涙を浮かべながら、本当におかしくて仕方がない感じた。
『ははは、いやー、久しぶりにこんなに笑った。気に入ったよお前。ライハだっけ? こんなに笑わしてくれたお礼に協力してやる』
「本当?」
棚からぼたもちとはまさにこの事か、これは割りとあっさりと問題が解決するかもしれない。
『ああ、ただし一つ条件がある。ボクは悪魔だからね、ちゃんと契約を結んで貰いたいな。そうすれば確実だ』
契約ってことは、何か対価があるとかそういうのか。やっぱりあっさりとはいかないか。
「対価は?」
『そうだねー、さっきたくさん笑わせてもらったし、難しいことではないよ』
口を閉ざす。
エルファラの瞳が燃え上がるかのように輝き、顔が険しくなり、ゆっくり立ち上がった。
『ボクの復讐に手を貸してほしい』
復讐?
「人間にとかだったら協力できないぞ」
エルファラは首を横に振った。
『違う、とある悪魔に、だ。そうすれば壊れてしまったボクの大切な奴も治るかもしれない…』
「?」
悪魔が悪魔に復讐する手伝いをするとは、凄く不思議なことだけど、人間同士でも憎しみ合う事があるのだから、悪魔にも何か事情があるのだろう。
頭の中に、捨て駒にされた悪魔達の姿が甦った。
「わかった。だけど、出来ることだけだぞ」
『ありがとう、それだけでも充分だよ』
手を伸ばされ、オレはエルファラの手を握る。
交渉は成立した。
バラバラと世界の端から崩れる音がする。
『ボクは君のために代償無しで力を貸そう。それだけでも君は誰も手出しができないくらいに強くなるだろう』
「オレは君のためにその復讐する相手を見付ける。特徴はある?」
『何人かいるからね、また夢で細かく説明するよ』
世界が細かくひび割れていく。ヒビ割れた所から更にヒビが入り、砂となって消えていく。
『ではライハ、また夢で』
「ああ、エルファラ。また夢で」
世界の崩壊は加速し、あっという間に元の闇へと戻った。