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フリーダン ~開戦を見る~

そこからしばらく滞在した。

ユイは大分回復し、少しずつ精霊の助けが必要ないものになっていき、一つ、また一つと精霊が抜けていった。記憶の混乱が少なかったのは、刀に宿ったものが無意識的にユイの精神を共有していたからだった。


それを伝えると、ユイは驚きに目を見開き。


「そうか、九十九神(つくもがみ)が付いてたのか」


と嬉しそうに刀を撫でていた。


「ユイ! チャンボラしよう!」


『グロレ、チャンバラだ』


「さっきもやったじゃないか」


グロレもすっかりユイに(なつ)き、暇があれば稽古をつけてくれとせがんだ。それに苦笑しながらも付き合うユイは人が良い。

微笑みながらそんな風景を眺めていたら、リジョラに『嬉しそうだな』と言われた。


「ええ、団欒(だんらん)は大好きよ」


師匠と暮らしたあの日々が懐かしい。


「あなたもそうよね」


レンを撫でれば、フルフルと体を震わせて喜んだ。


ユイを“遣い”に誘ったのだけれど断られてしまった。

残念だけど、こればかりは強制出来ない。契約は双方の合意があって成されるものだから。


やりたいことが見付かったのだそうだ。


「『あいつを手助けしてやりたい』ね。青春してるわねー」


誰かのために頑張れるのは凄いことだ。

それならば、こちらも手助けが出来る。


ユイは強くなるべく雪山を駆け巡って魔物を倒していた。戦えば戦うほど強くなる彼は、まるで鋼のようだ。


「さて、そろそろ次の子を助けに行かなきゃ」










それから三日後の昼、フリーダンは周囲の魔力の異変を感じて外に飛び出した。尋常じゃない様子のフリーダンを見てリジョラもグロレもユイも追い掛けて行くと、南の空一杯に夥しい数の魔方陣が展開され、そこから鉄の雨が降り注いだ。


フリーダンがいるところはリューセ山脈で標高は高く、此処までは被害がなかったが、鉄の雨が降り注ぐ様子を呆然と眺めていた。


次々に上がる砂埃。立ち上る炎や煙。風に乗って悲鳴が聞こえて来るようだ。


「……酷い」


涙が溢れる。

この光景は前にも見た。


まだ人間であった頃。

ちょうどあの中で、こんな光景をこうしてただ呆然と眺めていた。目をつぶれば繊細に思い出せる。耳から離れない悲鳴も、呼吸をする度に吐きそうになる臭いも。


「フリーダン」


「あ……」


右手を暖かな手が包んだ。グロレが真剣な顔をしてこちらを見上げていた。


「フリーダン泣かせるの。グロレ、刺して来ようか?」


「グロレ…」


まだ小さいながらも、グロレはアシュレイの戦闘民族としての血を感じさせる。グロレは悲しい顔一つせず、攻撃してきたものを凛とした顔で見ていた。

それは倒すべき“敵”を覚えるために。


「あれらが悪魔か」


ユイが言う。


『何とも、不快な臭いをさせる』


「気配もな」


冷たい氷を孕むかのような声でユイは海の向こうを見詰め、笑みを浮かべた。


「何とも懐かしい気配だ」


それは強敵を前にした誰かの姿と重なった。

戦わねば奪われると分かってはいても、フリーダンは争い事は好きではない。それでも、だからこそ早く終わらすために動くのだ。


「三人とも、話があります」


フリーダンは口を開いた。

これから起こるだろう非情な事と、阻止するための計画を。


「これが私が要求する手伝いとしての対価です。もし無理なら別の対価に変更しますが…」


二人と一匹は顔を見合わせる。


「やるに決まってるじゃないですか」


『フリーダンの為だ』


「うん!」


迷いのない返答に目頭が熱くなる。


「ありがとうございます」



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