剣を奮え.10
「ジャスティスの底力を見せてやるよ!! メテオショット!!!」
大砲並みの爆音。
ジャスティスから放たれた光が分裂し、七色の光りを纏いながら飛んでいく。
襟巻き角竜が鳴き声を上げ、襟巻きが輝くと結界が生成された。光りは結界に阻まれ爆発を起こす。
「もう一丁!!!」
──ズドン。
光の軌道は一度目の時と同じ所をなぞり、全く同じところに落下して爆発した。繰り返しの衝撃で結界の耐久値を越えたのか、全体に薄くヒビが入った。
「アレックス、もう一度だ」
「おうさ!」
背後で銃撃が。そして膨大な魔力が後ろから発生した。
「いくぞ!作戦通りに!!」
「よしきた!」
「うん!」
久し振りに雷の矢を発動し、射つ。
矢は手元を離れた瞬間倍増し、結界に襲い掛かった。縦横無尽に高圧電流が駆け巡る。
『 止めよ 』
またしても声が響くが、突然音が消え、切り替わる。
ネコが聴覚を調整してくれたらしい。これで思う存分集中できる。技が効かなくなったことに角兜の目が僅かに見開かれる。いつまでも同じ攻撃が聞くと思ったら大間違いだ。
上からまたアレックスのメテオショットが直撃してヒビが広がっていく。
もう少しだ。
再び雷の矢を放ち、結界全体に広がっていく。右側から火花が弾けた、ガルネットが流れる攻撃で鎖の節々に細かい傷が入り、すぐさまノルベルトと入れ替わると、大剣を振り上げ振り下ろした。バチン、と音を立て鎖が切断され、結界が薄くなった。全体に入ったヒビが軋む。
崩壊はすぐだ。
それにしても攻撃してこないな、結界があると攻撃出来ないのか?
「ショット!!!」
四度目のメテオショットで結界が崩壊した。これでニックの魔法が当たればオレの出番。
「!」
角兜は剣先をノルベルト達に向けていた。剣が赤みを帯びる。しまった。
だが、魔法が放たれる前に、後ろから飛んできた銃弾が剣を弾きあげ、向きを強制的に変えさせた。
剣先から放たれた赤い光りは明後日の方向へ飛んでいき、空中で破裂。
角兜は驚きの表情をしている。さてはこいつ打たれ弱いな。それとも予想外な事に弱いのか。どちらにしてもこれは好機。
同じく空を見上げ、ニックの魔法を確認する。空を覆っていた大量の水が、一斉に落ちてきた。
結界が破壊された事になのか、水が落ちてきたからなのか、狼狽えた武装した奴等に防ぐ術もなく被り、あらかじめイメージを固めていた魔力で落下してきた水に干渉すれば、一瞬のうちに水が凍り付いて拘束した。
ニック、創成魔法──魔力から直接物体を作り出す魔法──苦手だっていってたのによくこんなに作れたな。
左手に魔力を込める。じわじわと先程から甲殻が広がっていく気配がするが、関係ない。
悔しげに睨み付ける角兜。
まだ動ける奴が魔法を放ってこようとしたが、それよりも早く生み出した雷が炸裂した。金属製の鎧が災いしたな。
雷の熱で氷が少し溶けたが、それでも拘束は解けてない。
悪魔たちは半分以上が呻き声を上げていた。
「っしゃあ!!やったぜ!!」
後ろから歓声が聞こえる。念入りにもう一度凍らせておこうかと近付くと、突然黒い魔力が発生し、悪魔達を覆い始めた。景色が歪んでいく。
「……なんだこれ」
「退避だ!!!」
「まきこまれるぞ!!早く逃げろ!!」
振り替えると広範囲に渡って魔方陣が展開されていた。
『逃げよう!!』
「お、おう!」
仲間をも巻き添えにして攻撃してくる連中だ。もしこれが攻撃系のなら間違いなく全滅する。
急いでその場から離れると、ニックが杖を手に何かの魔方陣を高速でいくつも形成していた。だが、魔方陣は出来上がる寸前に崩れ完成しない。大量の魔力が消費され、顔色が悪いが、それでもニックは悪魔を睨み付けるようにして魔方陣を作り続ける。
「くそっ!このまま逃がしてやるか!!」
逃がす?
ハッとして悪魔の方を見ると、悪魔の身体が輝き、次の瞬間あんなにいた悪魔達は一斉に姿が掻き消えてしまった。
「ぶはぁ!!げほっ!~~っ、クソォ!!」
ニックは杖を強く地面に叩き付けた。
後ろでは悪魔を退けたと歓声が上がっているが、オレは目の前の氷が残された大地を静かに眺めていた。果たしてどっちが勝ったのか。いいや、これは引き分けか。
人間側の被害も相当なものだった。
ニックは魔力欠乏で倒れ、ガルネットとアレックスは多少なりとも傷をおい、ノルベルトは気が抜けた途端に魔力酔いでダウン。オレも角こそ出なかったが甲殻が広がり素肌が出せない。救助活動をしていたラビは疲労と魔方陣書きすぎて魔力がだいぶ減ったが、比較的元気だった。
そして増援に来た人達も1/3は再起不能になった。
亡くなった人も少なくない。
というか、こんなに来てたのかと、戦いが終わってから気が付いた。
話を聞くと、偵察隊の報告とラビと避難してきた街の人達の連絡を得て、これは大変だと緊急で依頼が貼られたらしい。
おかげでギルドから専属の医者がやって来て手厚い治療を受けている。もっともオレは逃げ回っているけど。回復速度は遅くなったものの、それでも一晩で完治するので、無事な人達と共に後処理に回っていた。
といっても亡くなった人の埋葬と、悪魔の火葬だが。
『運んできたよー』
「ありがとう。そこに置いて」
『ん』
ニックの魔方陣書にある上級の火の魔方陣を苦労して描いて、悪魔達を一気に火葬した。燃え上がる炎を眺めながら戦いを思い出していた。
仲間にも容赦ない武装したのと、悪魔なのに魔法が使えない奴等。何が違うんだろう。
神からの記録だとそんな情報は無かった。
最低でもちょろっとは使えるはずだが、そんな気配すらなかった。悪魔側にも何か異変でもあるのだろうか。
ネコが隣に座り尻尾を腕に巻き付ける。
融合するでもなく巻き付けてるだけだから、暖が欲しいだけなのか。
『…………ねぇ、さっきのやつだけどさ』
「うん?」
突然ネコが沈んだ声音で語り出す。
『ネコ、悪魔じゃん』
「うん。そうだね」
『あいつらと同じなんて、嫌だなぁ』
「…………」
ネコの頭を撫でる。掌にすっぽり収まる程の頭で、いつも能天気なネコがこんなことを言うなんてと驚くと同時に複雑な気分になった。
「大丈夫。悪魔でも、ネコはネコだろ? なんかあってもオレはネコの味方だから」
『……うん。ありがとう。ライハもそのままでいてよ』
「努力はするよ」
人間は変わりやすい。もう半分以上が人間辞めてるけど、それでも心までは変わらないようにしないとな、と、本気で思った。