剣を奮え.7
目の前に赤い物が迫る。
「あぶね!!」
それは顔すれすれを通り過ぎ、次いで剣を振り上げた悪魔の胴体を、剣が振り下ろされる前に滑らせた。
今回は昨日のと違うのか、魔法を放ってくるのが多い。
『人間風情がァアアアーービュッ』
襲い掛かって来た悪魔が仰向けに倒れた。
額には黒い帯が突き刺さっている。ネコの尾だ。
それぞれ攻撃範囲が広いのである程度距離を取って戦っているが、正直倒しても倒してもやってくるので切りがない。これは本当にラビを逃がしていて正解だった。
誰かを助ける余裕がない。
それは広範囲に広がる悪魔達が他に行かないように、こちらに集中させるためにあえてニックが仕掛けているというのもあるが。
その悪魔の大軍を相手するために前方をスピードがあるオレとネコが深く切り込んでいき、中間を力の強いノルベルトとガルネット、そして後方を援護が出来るアレックスとニックが担当している。しかし。
「流れ弾行ったぞ!!!」
「!!?」
すぐ目の前を光の玉が高速で通過し、左側で大爆発が起きた。
この、連携が上手くいってないのが辛い。
カリア達と戦うときはある程度動きの予測が付いたため合わせることができたが、なかなか難しい。少数ならなんとかなる。見えるから。数が増えると分からん。
「!」
前方に像ほどの大きさはある四足獣が見えた。角と大きな襟巻きが見える。それが横一列になって動く壁となって迫って来ていた。
ニックは手が届かない遠くの悪魔を相手にしており、アレックスは上空の化け鳥を相手している。ノルベルトとガルネットは戦闘能力の低い悪魔を蹴散らすのに忙しい。
ネコもなんだか凄い早さで駆け巡っているし。
「よし、オレが止めるか!」
魔法を使わずに、かつ被害を多大に出しながら。
とするなら纏威だな。
呼吸と整え、纏威を発動し、黒剣を鞘に納めると一気に駆け出す。尾を引きながら景色が後ろに伸び、拳を強く握りしめた。
左足を地面に突きだし溜めを作って振りかぶる。
「どっせえええええいっ!!!!!」
突進の勢いをそのまま、盾の魔方陣も拳に乗せると、全力で突きを放った。
襟巻き角竜が大きくぶっ飛ぶ、しかし、思ったよりも飛ばなかったのは、左右を鎖で連結させて文字通り動く壁であったからだ。左右二頭ずつを大きく交代させたが、壁はまだ健全だ。
鎖は一本ではなく、複数に分かれて付けられており、雷を放っても全て一掃は出来ない。それに、飛ばしたときにチラッと向こう側が見えたけど、前の奴等とは違う完全武装の連中が見えた。
あれが大挙して来られたら苦戦する。
足留めの方法を考えたが、纏威は威力はあるけど範囲は限られるし、魔方陣は魔力消費を抑えられるもののオレのレベルでは威力はたかが知れてる。
『放てぇぇえ!!!』
襟巻き角竜の後ろから大量の何かが上がった。
それは上空で弾け、その欠片が雨のように降ってくる。
「い!?」
それはイリオナの襲撃と良く似ていた。
乱暴に引き千切ったような凶悪な断面をした形も不揃いな鉄の欠片が飛んでくる。
「ネコ!!こっち来い!!」
咄嗟に声をかけ頭を回転させた。
さっきの矢とは違う、威力も速度も桁違いだ。ニックの結界は当てに出来ない。あれは術者を中心に展開されるため、遠く離れたオレ達には届かない距離だ。雷も氷も纏威も無理だ。オレの結界も、性能を弄くり回してしまったせいで50㎝しか拡大できない。
ノルベルトが剣を盾にしながら空を見据え、ガルネットを呼ぶ。アレックスはギリギリニックの範囲内だ。
『ライハ!!』
「影に潜っておけ!!」
ならば、可能な限り叩っ切るしかない。
ネコがオレの影に潜り、意識を繋げて協力をしてくれるらしい。動くものを叩く能力はネコの十八番だ。