南方戦線.4
「引き付けー……、打てぇえええ!!!」
一列に並んだ音撃器の大太鼓が一斉に鳴り響き、その衝撃波が前方。丁度こちらへ槍を構えて走ってきていたリザードマンの群れへと直撃した。音波は鼓膜を激しく揺らし、目眩を起こさせる。しかもリザードマンは鼻先に空気の揺れを感じ取る器官があり、音撃器の音波でその器官を麻痺させた。
リザードマンの足元がバラつき、頭が上を向いて目眩を逃そうとした瞬間、ハンター達が襲い掛かった。
剣を振りかざし、拳を奮い、叩きのめす。
「撤退!!!魔法弾用意!!」
ハンターと入れ替わるようにして魔術師や魔法具師が先頭に立ち詠唱や術式を展開する。
炎、石、氷、雷と威力はそこそこだがすぐさま発射できるものを素早く用意し、リザードマンの第ニ波に狙いをつけた。
「放てぇえええ!!!」
虹色の攻撃が迫ってきたリザードマンに襲い掛かった。モウモウと立ち込める煙の中から悲鳴に似た声が聴こえる。
「まさか音撃器の大太鼓が効くとは思わなかったな」
「だな!案外海龍に似た性質があったりして」
「だったらこれは海軍の獲物だろう。俺らのが無くなっちまう」
「違いねぇ」
音撃器隊を努めるハンター達が誇らしげに太鼓を撫でた。元々これは海龍に対して使う牽制の為に輸入していたものだが、海龍の音を感じ取る器官を刺激させて動きを鈍らせる効果がある。だが、今回海龍はイカを食べるのに忙しく、遅い来る敵も蜥蜴であったため使い道が無かったのだが、何処からかの情報で戦いに使えると言うことで負傷したハンターに配られたものだった。
当初はそんな効果があるものかと半信半疑だったのが、効果はてきめんで、すぐさま嬉々として太鼓を打ち鳴らしながら仲間の援護に向かうようになった。
「南南東!!!光線来るぞォ!!!気を付けろォ!!!」
見張り台からの警告で視線を向けると、その場所だけが空が真っ赤に染まり、次の瞬間光の塊が打ち出された。
何の魔物かは知らないが、アレのせいで何人、いや、何十人犠牲になったことか。
島に向かってくる光玉は、ルキオ側から発射された青白い光玉に寄って軌道を大きく上向きに変え、空軍に当たらないギリギリを通過すると後ろの山脈へとぶち当たって爆音を響かせた。
ルキオにはこの大陸にいる賢者と呼ばれる五人の大魔術師の一人がいる。その大魔術師が島に放たれた大質量の攻撃を受け流してくれているのだ。
「悪魔だかなんだが知らねぇが、てめぇらの好きにさせてたまるか」
劣勢だった戦況が少しずつ変わり始めていた。