同じ穴の狢.10
ジョウジョは笑う。
ライハが怒りこちらに殺意を向けてくる様が楽しくて仕方がない。あの時の分体の記憶は全て知っている。だからこそ油断をしないように、能力を活用して罠に嵌めるつもりだ。
悪魔は魔法の属性とは別に最大七つの特殊能力を持っている。
欲望がそのまま能力になっているもので、種族によって能力の使い方は様々だが、ここの世界に派遣される悪魔は特殊能力が使える数も多く、それなりに能力が高いモノ達だ。
【生存欲】
超回復能力や分体を作る能力。
【睡眠欲】
相手の意識に介入して思考をボヤけさせたり幻を見せる。
【性欲】
相手の魔力を繁殖行動で奪う、強制的に惚れさせる魅了。
【食欲】
相手を食べて能力や魔力をもぎ取る。
【怠惰欲】
洗脳によって相手を手足として使う。
【感楽欲】
音や魔力に敏感になり、快楽に刷り変える。
【承認欲】
自分の眷属を作り出す能力。
ジョウジョは今回その内の【睡眠欲】【性欲】【承認欲】を使ってライハを追い詰める。あいつは何故か人間が傷付くのを嫌う、そこをジョウジョは利用するのだ。
『悪魔に弱点を見せちゃダメよ。そこを見逃してやるわけ無いんだから』
「くっ…!!」
死体がゾンビとなって襲い掛かってくる。
いくら死体とはいえ、さっきまで生きていた人の体を無下に出来ない。それに。
「…ぅ……うぅ…」
「体……が…………た…けて……」
まだ生きている人も混ざっていて苦し気に呻きながらこちらへと強制的に向かわされている。
黒剣を使ってしまえば死んでしまう。かといって死体の方に雷の矢を射っても、しばらくするとまた立ち上がってくる。どうやら操っている本体は人の体を盾にしているようだ。
必死で投げ飛ばしているが、どんどん増えてくる。
体が痛いと悲鳴を上げなら襲い掛かってくる人の脚を折っても、無理矢理立ち上がらせる。一歩踏み出す度に聞こえてくる骨が筋肉に刺さり皮膚を突き破る音と、悲痛な叫び。まさに悪魔のような非道だ。
『ほらほら、何をもたついているの? それを止めたかったらちゃんと消さなきゃ、のんびりしていると手遅れになるよ』
わかっている!だが!
「ライハ!!ってうわああああ!!!なんだいこれ!!?ゾンビ!?ゾンビかい!?」
「アレックス!!」
裏路地から飛び出してきたアレックスが、オレに群がるゾンビに驚いてジャスティスを構える。
「待て!!生きてる人間もいる!!操られているだけだ!!」
「えっ!うわっ悪魔!!そーゆーことなら!!」
そこでようやくジョウジョに気が付き、すぐさま神聖魔法弾を装填しようとするが。
『邪魔はさせないよ!』
アレックスに向かって指を指すと、街路樹が突然バラけアレックスに襲い掛かる。すんでで気が付いたアレックスが飛び退き火焔に切り替えて木に向かって発砲する。
(どうしたら止められる!?骨を折っても雷でも無理だ。……いけるか?)
頭の中に怒り心頭だった時にやらかした凍結魔法を思い出す。
あれは本当に偶然出来たもので、普段だとまだ自身の腕を凍らすくらいしか出来ない。もしくは逆に暴走する可能性だってある。
だけど、やる価値はある。
ラビの魔力増強と角の光彩の魔法具を取り外し、アレックスを振り替える。
「持っててくれ!!」
「!」
投げた魔法具をアレックスが受け取る。角の色が元に戻り、魔法具によって抑えられていた魔力が戻っていく。
怒りの感情を切り替えていく。
凍り付く世界。
リューセ山脈で味わった雪崩よりも冷たく、肺すらも凍る世界。
「凍れ!!!!」
思い切り地面を踏みつけると、そこから地面が凍り付きゾンビの足も巻き込んで固まった。息が白い。うまくいった。これでもうゾンビは使えない。だが。
悪魔は笑う。
『これで終わりじゃないわよ』