同じ穴の狢.5
ヘイ!俺はアレックス!冒険が好きなナイスガイさ!
今回悪魔が出てきたと思ったら、その悪魔が俺の相棒を悪魔だと良くわからないことを言い出し、ペットが食われてやっつけてやろうと思ったら殺されかけて、何とかして生き延びたら相棒が悪魔に変貌していたんだぞ!しかもあれからネコも一緒に目が覚めなくて困っているんだけどどうしよう!かれこれ3日目なのに目が覚めなくて心配なのにご立派な角が生えているのと気配がヤバイせいで街に入れないんだよ!ハッハッハッ!!
いやもうほんとどうしようこれ。
「おいアレックス!さぼんじゃねーぞ!」
「サボってた訳じゃないよ!ちょっと現実逃避してただけなんだぞ」
「サボってんじゃーねーか」
ということで、ハイバにネコと一緒に乗っけて運んでいるんだけど、正直ね、泣きたい。
気配がヤバイから魔物どころか獲物が息を潜めてしまうから狩りも出来ないし、どっかのハンターがギルドにヤバイ魔物がいるとかの情報を流しているせいで、ギルドから調査隊が派遣されてて追われている身状態。全く、こっちは追い掛けたい派なのに、冗談じゃないんだぞ。
「なぁ、これ大丈夫なのか?本当に起きるのか?」
「さぁ。わからないけど、取り敢えず一週間様子見て、駄目そうなら俺の知り合いに診て貰おうと思っている。変なやつだけど、こういうのには強いから」
「ふーん。でもその知り合いに見せて即退治対象にされたらどうすんだ?今のライハ、完全に悪魔なんだけど」
「………、多分大丈夫!」
「ほんとかよ…」
信用出来ないなと目が言っているが、俺達ではこそこそ運ぶのが手一杯だ。なんせジョウジョには逃げられたから、またいつ襲ってくるかわからない以上、警戒度をMAXにしていないといけない。
つまり、夜すら満足に寝れないって事だよ!ハッハッハッ!!
“双子の共鳴”の中の人形は木っ端微塵になってたし、次遭遇したら間違いなく命はない。ということで、今ラビと一緒に対抗策として魔法本の使える魔方陣を大量の紙に描き上げて、すぐさま対応できるようにしている。俺はジャスティスがあるからなんとかなるけど、ラビは無理だ。だけど、ライハが寝ている今、戦力は俺とラビしかいない。
万が一の時はラビにも戦ってもらわなくてはならない。
しかし。
「………あ! あぁーーー…」
また描き間違えた。
初級らしいけど、なんでたって魔方陣はこう変に細かくてめんどくさいんだ。俺ならもっと簡略化してやる。
それなのにラビは手慣れた手付きで上級魔方陣を描き始めている。
何でそんなにスラスラ描けるのか。
ダメだ。一旦気分転換しよう。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「ん、気を付けてな」
透明な水は何処までも澄んでいるが、今オレがいる場所は既に光が届かない程の深さで、上の方で光の帯がユラユラ揺れながら掠れて消えていた。
だけど、オレは更に底を目指して潜っていく。
耳障りなこの泣き声の持ち主を探して。
体が冷えきり感覚が鈍いが、体の内部はまるで燃えているかのように熱い。アウソと泉に潜った事を思い出す。あの時はよくあんな淀んだ水に潜ろうと思ったものだ。
「 ! 」
底の方にぼんやりとした小さな灯りが見えた。
そこを目指して潜っていくと、その光りは膨らんでいき体を飲み込んだ。
気が付くと、真っ暗な空間に立っていた。床はあるが、あまりにも暗すぎて、目の前に翳した自分の手さえも見えない。
そして、泣き声が大きくなっていた。
何処から聞こえるのかはわからない。部屋全体にスピーカーがあるように全方向から聞こえるのだ。
「 ねぇ、なんで泣いているの? 」
ピタリと泣き声が止まった。
『 だれ 』
一瞬のうちに幾千もの目玉が闇から開いてこちらを見る。真っ暗な空間なのに、目玉がはっきり見えて、完全なホラーだ。
『 なんでーーの中にいるの? 侵入者? 』
こちらを窺う気配。
警戒されてる。
でも、なんだろう。声が子供の声に聞こえた。
オレは床にゆっくり胡座をかいて座り警戒を解いた。
子供は気配に敏感だ。特に、良くない気配は。
「 あんまりにも泣いてるから、心配になって来てみたんだよ。 よかったら話を聞くよ 」
『 ……。 』
瞳が閉じられ、辺りがまた暗闇になる。だけど、オレの耳は小さい子供の足音がゆっくりこちらにやって来るのを聞いた。
意識がゆっくり浮上すると、筋細胞が引き裂かれているみたいな凄まじい体の痛みと頭痛で呻き声を上げた。なんだこの痛み。動かす度に激痛が走る。つか呼吸すらしにくい。
「ライハ!起きたのか!?よかったーー!!!アレックスーー!!!アレックスーー!!!早く戻ってこーーい!!! 体の具合はどうだ?腹は? あ!今水を持ってくるな!」
ボヤける視界でラビらしき影が忙しなく動いている。
何度か瞬きをしているうちに視界が戻り、逆に戻りすぎて目が痛くなった。目の筋肉痛い。
「!」
顔を覆った指先に違和感を覚える。
無いはずのものがある。
まさか。
手を頭の上に持っていって血の気が下がる。またコレかああああ!!!!!
角を鷲掴みして折ろうとしたが、前よりも頑丈になってるみたいで、ミシミシいうだけで折れない。それどころか付け根が痛い!激痛!!
「ちょっと何やっているんだい!!?」
そうこうしているうちにアレックスがやって来て、病み上がりで何をしているんだと止められ、騒ぎに気付いたラビにも変な事をするなと説教を食らったのだった。




