ジャスティスとネコと.5
練習しまくって吹けるようになった指笛(三回に一回程)を吹いて灰馬を呼ぶと、茂みを揺らしながら灰馬が戻ってきた。何やらモグモグと口を動かしている。食事中だったのか、てか主が戦闘していたのにマイペースだな。感心するわ。
「さて、こいつをどう処分するかだな」
「街に持っていけば良いんじゃないかい?」
地面に体育座りで回復を待っているアレックスが言う。
「勝手に出てきちゃったし、持っていっていいものか。怪しまれないか?」
「大丈夫じゃない?多分。俺たちの顔なんていちいち覚えてないだろう」
はっはっは!と笑うアレックス。
だが。
『昨日の夜のメンバーはきっとヴルストくれた青年として覚えていると思う。ネコでさえ肉をくれた人の顔覚えているのに、真面目なドルイプチェ兵士なんか覚えてるよ』
「………」
ネコにそういわれたら確かにと思ったのか口を閉ざして考え始めたアレックス。オレの顔はあまり出してないから平気だと思うが、かといってオレ一人で引きずっていくのもなんか図的におかしい。
「待てよ、要は顔をしっかり見られなきゃいいんだよな」
いらない布を引き摺り出し、魔力を集めた指先で魔方陣を描いていく。
「何を描いているんだい?」
「意識逸らしの魔方陣。もしこれが人にも効くなら使えるかもしれない」
何度も遭遇し、その度に解除してきた魔方陣。形状は複雑ながらも何度もじっくり見てきた分、正確に描ける。
「これでよし!腕だしてみろ」
「ん!」
腕に巻いて魔力を入れると、一瞬アレックスがただの通りすがりの全然知らない人みたいな感覚になるが、すぐさま集中して見ることで元に戻る。
効果は抜群だ。
この意識逸らしの魔方陣は光彩魔法や珍しい音響魔法、そして樹木魔法を使っている。原理は分からないが、存在がボヤけるというか、背景の一部みたいに空気が薄くなるのだ。
これで、そうとうガン見しない限りは大丈夫だろう。ついでにネコにもやってやろうとしたら呪いで存在が強調された。何処にいてもネコの居場所がわかる。
これ、囮するときに便利だ。
「で、どーやって説明する?二人と一匹でやったって言って信じてもらえると思うかい?」
「ハンター登録証だと高ランクだとわかってもらえたら“ああ、なるほど”って感じで納得してもらえるから楽だけど。アレックスはトレジャーハンターだし。なんかそういうの無いの?」
「………、あ、待って俺も確か登録証持ってるかも」
ごそごそと鞄を漁る。
そして、色々カスタマイズされたハンター登録証が引っ張り出された。
そこにはアレックスの名前と、ハンターランクA+の文字と、パーティー名が。
「………」
アレックスを見て、登録証を見直し、もう一度アレックスを見た。
「スーパーノヴァ?」
「うん」
「パーティーリーダー?」
「一応そうなってるね」
名前ありの正体不明大型パーティーのリーダーが何故一人でこんなところをうろつき、あまつさえ人拐いに拉致られかけていたのかはこの際置いておくとして、オレはアレックスに言いたいことが有った。
「リーダーもうちょい考えて行動しよう」
「俺は君のリーダーじゃないぞ」