ジャスティスとネコと.1
早朝。
日が出る前は空気がひんやりとしていて、何処か不思議な感覚になる。
「どう?いる?」
『うーん、ダメ。ここの人達凄くきっちり仕事してるよ』
警備兵の空いている所から矢を射って、光印矢で出ようとしたのだが、きっちり一定の間隔を保って死角の無いように見張り、威圧感もネズミ一匹通してなるものかと言われているような気分になる。
「黒く塗った矢でもダメかい?」
「何で塗るんだよ」
「煤とか?」
「ぜってー風圧で剥がれるだろ」
「そーか」
「せめて一人でも気をそらせれば、その隙にネコが矢をくわえて城壁を越えてくれると嬉しいんだけどな」
そこで、何かを思い付いたのかアレックス。
鞄から店で購入していた保存食のヴルストを引っ張り出した。大量に。
良くそんなに入ったなと思ったが、鞄に“秘密部屋”が付けられていた。早速活用している。
「俺の知り合いにドルイプチェ出身がいる。どんなに真面目な軍人でも、こいつか巨乳を見せるとただの人に戻る」
ただの人に戻るの意味がわからなかったが、タクトリアスもヴルストとビールを持っていけば上手くいくとか言ってたから、間違いはないだろう。
「俺がこいつで警備兵を釣っておくから、ライハは宿を引き払っておいてくれ」
「よしわかった。ネコも隙を見てこいつを持って脱出しててくれ」
『わかったー!』
光印矢で矢を指定したら、それをネコに渡した。あらかじめ魔力融合をしておき、オレは宿へと戻った。
店員に怪訝な顔をされたが、なんとか宿を引き払って戻ってくると、アレックスは上手く警備兵の意識を引いてくれていた。若い兵が空腹に耐えられずありがたくヴルストを食べ、少し離れたところにいる兵から羨ましそうな気配を感じた。
見た目は分かりにくいが、意識がヴルストに行ってる。
そしてネコから連絡が。
『(おーけーだよ!)』
上手くいった。
アレックスが頑張ってくださいと餞別のヴルストを配り終え、戻ってきた。
「…なんか騙すのが申し訳ない感じだったんだぞ」
真面目過ぎて。と、アレックスが肩を落としている。
「お前言い出しっぺだろ。その代わりにルツァ狩って仕事を減らしてやると思えば良いんじゃないか?」
仕方ないのでそういってやると、納得したようだ。
「なるほど。じゃあこれは公平なビジネスだね。彼らは疲れた体に最高のヴルストを手にいれ、その代わりルツァを俺達が貰う!よし!やる気が出てきたんだぞ!」
「準備はいい?」
「オーケー!」
手綱を持ち、アレックスがオレの肩に手を置く。光印矢に魔力を籠めると、景色は森へと変わった。後ろには城壁。
「おーぅ、本当に移動できたよ」
「行こう、昨日の今日なら回復しきってないはずだ」
「それを叩くんだね!よーし、待ってろよ!どんな相手であれジャスティスの露にしてくれる!」
何処で覚えたその台詞。