聞き耳をたてる
マテラではトマト尽くしだったが、ここはジャガイモ尽くしである。いや、ポトフ美味いよね。じゃがバタも好きだよ。でも料理全部がジャガイモはちょっと辛い。なんだか体の水分が取られている感じがする。
でもヴルスト美味かった。
ビールも美味かったが、まさか、入れ物を氷水に沈ませていて、勢い良く取り出してビールを注ぎ入れ、机にドンッ!!と置かれたのはビビった。
振動でビール溢れていたけど、それについては問題無しらしい。
ちなみにアレックスは酒が飲めないらしく、大人しく牛乳を飲んでた。ごめん、オレだけ飲んでごめん。実はちょっと前に誕生日来たんでもう堂々と飲めるんだよね。
次カリアさん達と合流したら朝まで飲み明かしたいと思っている。
「それにしても飲み屋ってのは何処行っても同じ雰囲気だよな」
何処に行っても飲み屋は賑やかで、色んな話が飛び交っていた。少なくともこの世界の1/3は旅してきたけど、酔っ払っていたら何処も似たようなもんだ。
「やることが同じだからね!食って飲んで喋る。でも仲間と飲むと大変なことになるから俺は好きじゃなかったけど!」
「気になるけど聞きたくないな」
酒絡みの大変なことは、大抵ろくなことじゃない。
「美味いか?」
飲み屋でネコが喋るとめんどくさい奴に絡まれる可能性があるので話さないが、尻尾の先で頷いて見せた。
「……おい、聞いたか?討伐隊の話……」
オレ達のすぐ後ろのグループが声のトーンを下げながらこんなことを言い出した。
声は真剣味を帯びていて、つい耳を傾けた。
「全滅だってよ」
「嘘だろ?あんなすげえ装備してたのに」
「それが、夕方ごろ命からがら逃げ帰ってきた奴が血塗れでギルドに来てよ、報告してたの見たんだってよ」
「冗談だろ」
「誰が?」
「ローレンツがだ。アイツが嘘つくと思うか?」
「いや、アイツは真面目だからな。冗談でもそんな作り話はしないな」
「で、その逃げ帰ってきた奴はどうしたんだ?」
「それが、瀕死の重体で医師と薬師が付きっきりだと」
「可哀想にな」
ルツァか。
そういえばマテラのシルカ以来だな。
つまみを食べながら食べていると、アレックスもこちらを見て耳を済ませていた。
「ちなみに、ルツァが出たのはどの辺なんだ?」
「レイライン川の方だと。こりゃあ下手したら封鎖されてこの街孤立だな」
「ゲー、この前東のクヴァドラートの街が同じような感じで壊滅したばかりじゃないか。嫌だぜ俺、街と心中なんて」
「俺もだよ」
話をしていたグループが立ち上がり、会計を済ませ去っていく。
意識を前に戻すと、アレックスが頭を抱えていた。
「どうした」
「レイライン川封鎖は困るぞ」
「オレも街に缶詰は困る」
ただでさえ南は大変なことになってるのに。
「アレックス、戦闘の腕は自信ある?」
「へ?」
呆けた顔でアレックスが見た。
「もし自信があるなら、手っ取り早くこの問題を解決できる方法あるけど、やる?」
ハッとするアレックス。そしてニヤリと笑った。
「俺、君のこと真面目で慎重派そうだからこういうことに興味がないと思ってたんだけど、どうやら思い違いだったようだね」
「まぁね」
ちょうど、ウズウズしていたからちょうどいい。ルツァを討伐するだけでも犠牲者は減る。これから嫌でも犠牲者は出てしまうから、少しでも減らす事に文句を言う奴はいないだろう。
アレックスが愛銃を取り出す。
「オーケー!俺も暴れたくて仕方がなかった頃だ!」