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INTEGRATE!~召喚されたら呪われてた件~  作者: 古嶺こいし
第一章 ホールデンにて
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言い方次第

「イケタニ・シンゴ様…」


 魔術師の人が誰かの名前を呼び、それにピクリとジャージが反応した。


「貴方は閉ざされた空間でずっと世の在り方に疑問を持たれていた。権力のみが世を動かす社会を、貴方はずっと嘆いていた。

 貴方は有能な方だ。常に自分の隠された能力を活用できないかを考えておられる。

 この国では貴方のような素晴らしい能力が必要なのです。

 貴方をあちらで腐らせておくなど我々は許せませんでした」


 ジャージ、もといイケタニ・シンゴの頬がわずかにだが赤く染まり、振り替えって声の主を見ると、魔術師の人がシンゴにふわりと微笑み掛けていた。


「我々の呼び掛けに答えてくれたこと、感謝します。

 勇者シンゴ様」


 その瞬間、何故かシンゴは涙を流し始めて座り込んでしまい、やっと願いが叶ったと小さな声で呟いていた。

 次いで魔術師は女軍師を見る。


「ノノハラ・アヤ様」


 女軍師はキレた状態のままで魔術師を睨み付けていたが、魔術師は特に気にすることもないまま喋り始めた。


「貴女は勇敢な戦士です。女性でありながら男尊女卑の世界をその不屈の精神で戦い抜いている。あちらでもっとも国に貢献しているのは紛れもない貴女です。それなのに女性というだけで人々は貴女をさげすみ罵る。男女の違いなど、からだの作りが違うというだけであるのに、それだけで一生涯の価値が決まってしまうなどとんでもない事です。この国では男女平等であり、神は誰にでも等しくその優しい手を差し伸べ認めてくださる。

 アヤ様、こちらでは貴女のその力が何よりも必要なのですよ、どうか貴女のその力で我々の国を救ってくだされませんか?」


「…………」


 話が終わり女軍師、ノノハラ・アヤは無言で顔を伏せてしまった。

 手も柄から離され、代わりに拳をつくって体を小刻みに震わ、唇は噛み締められて、まるで涙を堪えているようにも見えた。

 なんだろ、なんだこの展開。


「サイガ・コノン様」

「っ!」


 黄緑髪の少女が肩を跳ねさせた。

 瞳は激しく動き、腕が体を抱き込むようにしている。

 怯えているような反応だ。


「安心してください。この国では誰一人として貴女の事を化け物と呼び、暴力をふるう人間はおりません。家族も、村人も。もうびくびくと怯え、隠れるように生きることはないのです。貴女の能力は神子に匹敵するほどに尊く清い能力です。誇れるものです。

 この国では貴女は自由に動くことが出来るのですよ」


「ほ…ほんとに…?」


 少女、コノンがすがるように魔術師を見る。


「ええ」

「ほんとに私…っ、この力を持っていても、な、殴られたり蹴られたりしない…!?」

「ええ、絶対に。コノン様の能力はこの国に無くてはならないものです」


 ポロリとまたコノンが涙を流し始めた。

 しかし今度は嗚咽は上げず、静かに涙を流すだけだった。

 そして、ちょっと遠くて聞こえずらいが小さく生きててもいいんだ、と言葉が聞こえた。

 一体どんな壮絶な生活送ってたの。


「ユイ・ノブアキ様」

「次は俺か…」


 スーツの人、ユイ・ノブアキがめんどくさそうにフードの方を見た。


「貴方を、ただの家臣のままで終わらせるのは実に惜しい。主は貴方の事をまったく分かっていらっしゃらないのでしょう」


 ユイが僅かにだが驚きに目を見開いた。

 そして口元に笑みを浮かべる。


「へぇ、面白いこと言いますね。貴方は俺の何を知っているんですか?」


 それに魔術師も不敵な笑みを浮かべ、何でも知っていますと口を開いた。


「日ノ本の侍は認めた者にしか服従しない、例えそれが親であっても。主は力は凄いがどうも頭が弱いみたいですね、こんな主ではこの世で生き延びることは出来ない。いずれ下剋上か、もしくは近いうちに他社に滅ぼされる。貴方はそれをすでに感じ取っておられる、実に有能な方です。それなのに主は貴方を軽んじ、せっかくの助言も聞き入れようとはせずに暴走している。そんな事ではいけないとたしなめるも力で捩じ伏せられる。貴方はそれに不満を持っています。

 主が有能であったなら…、いいえ、貴方が武家ではなく将軍家に生まれていれば」


 カチリと何かの音が聴こえて視線を音の方向に向け、ぎょっとした。


(スーツの人!腰に、日本刀下げてる!! え!?なにこの人、スーツ侍!?)


「ここでは貴方の力を思う存分発揮できます。もう愚かな主の言いなりにならずに済むのですよ」


 ふん、とユイが腕を組み鼻で笑う。


「面白い。で?俺にここで家臣になれ、と?お前の言った通り、俺達は認めた者にしか服従しない。お前らに俺を認めさせることが出来ると思ってんのか?」

「勿論です」


 自信満々な魔術師の人にユイが笑い出した。

 何が可笑しくて笑っているのかも分からない。

 オレはただただ恐怖していた。


「痛い自信家もここまでくると感心するわ!良いぜ!やってみろよ。ただし気に入らなかったら…即切り捨てる」

「良いでしょう」


 頭の中に何故か戦国ゲームのムービーが流れ、ここが何処だか分からなくなってくる。


(怖い、なんなのこの人達。もうお願いだから早く『ドッキリ成功』のパネル持ってきて!早くこのカオスの空間から出たいんです!)


「アマツ・ライハ様」

「………はい」

「貴方は心に深い傷を負っておられる」

「…………」


 オレもちゃんと巻き込まれるのか。


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