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鞘の人達.4

黒いものがたくさん降ってくるのが、えらくスローモーションだった。スキャバードの一人がユエ婆を抱えて建物の裏側へ回るのが見えた。何とか身を隠した、次の瞬間。


爆音と振動が体を揺さぶり、遠くで誰かが悲鳴を上げ、土埃の臭いが充満する。


噎せ返るような血の臭い、背中に走る痛み。何とかして頭を上げると、ユエ婆が空に向かって両腕を伸ばしていた。バチュンと、耳元を何かが素通りして地面に埋まる音が頭の中に響く。


音はしばらく続き、誰の悲鳴も聞こえなくなった。





挿絵(By みてみん)




どのくらいそうしていたのか。



気が付けば空は元の青空へと戻り、不穏な静寂が流れていた。


「……いてて……、うわ、刺さってる」


ズキンと背中が痛み、手を伸ばすとなんか刺さっていて、引き抜くと錆びた鉄片が血だらけになっていた。破傷風が心配である。


『重い……』


「ごめんごめん」


ネコを潰していたらしい。そしてもう一人。


「……誰だ?」


顔を見るとモントルドだった。

どうやら建物の裏側へ飛び込んだときに突き飛ばして下敷きにしたようだ。幸いモントルドは気絶してたので文句は言われなかったが、一応謝っておいた。


「ユエ婆さん!!!」


誰かが叫び声でそちらを目を向けると、ユエ婆は左腕と頭から血を流していた。それをテッドが支えていた。


「怪我した奴は手当てを!!動ける奴は手伝うよ!!」


「うわっ」


カリアの声の方向を向くと、建物の一部が崩れて下敷きになっている人がいた。出ている足を見て青ざめる。アウソだった。


「アウソ!」


『キリコの臭いもする!』


「それはいかん!!ネコ頼む!!」


すぐさま尻尾で助け出そうとしたが、下手に退かすと更に崩れてくる予感がした。


『ダメだ。これだと更に崩れてくる。どうすれば、…………ライハ、尻尾で支えておくから、その隙にどうにかして引っ張り出せない?』


「わかった!」


天井から切れて垂れている蔦を回収し、簡易の縄を作って持っていくと、ネコが慎重に崩れた瓦礫と埋まった人の間に変形させた尻尾を差し込み、少しずつ隙間を開けた。


まずはアウソを回収。頭から血が出てるのですぐさま治療班へと引き渡す。そして隙間に潜り込み、体の一部を見付けると蔦をくくりつけて、外にいる人に引きずり出して貰う。ガレーラ、そしてキリコ、と計五人の人を救出した。


「いたたた……、まさか建物が降ってくるとは思わなかったわ……」


キリコは軽症。あとは、どっかしら打ったり折ったりしていた。


町の外からも呻き声が聞こえる。救出に行った方がいいな。治療班には治療系の魔術師がいる。スキャバードは凄腕のハンター集団だ。怪我はしているものはいるが、そこまで酷い怪我の者はいない。精々腕を骨折くらいだ。


「カリアさん、外の救出に行ってきます」


「わかった。コッチも済んだらすぐに行くよ」


「ちょっと貴方背中が血だらけですよ!!!」


スキャバードの敷地から外に出ると、地獄だった。建物が崩れた跡、飛来物によって大怪我をした者。怪我人を治療するために、自らの怪我の治療もそこそこに走り回る医者や魔術師達がいた。


「…………ぅ……」


すぐ近くで呻き声が聞こえた。足を挟まれた女性だった。意識はあるが、突然のことに呆然としていた。


「大丈夫ですか?」


「………一体……なにが?」


「今脚の物を退かします!」


そういう感じで救助活動を続け、元々医者が多い国だったからか、今は怪我人も一ヶ所に集められていて、治療を受けていた。


イリオリの外にも行ってみたが、国境の外は飛来物によって深く抉られている所が幾つもあり、イリオリ以上の惨事となっていた。どうやらイリオリ上空に結界が張られ、大壊滅を避けられたという話だ。


「ゆっくり歩いて、もう少しさ」


アウソも頭ぶつけて気絶していただけで、時間が経つと復活し、スキャバードの皆と共に救助活動をしていた。ユエ婆も左腕を骨折したものの、復活するや治療の為に働き始めた。流石はルツァと戦うスキャバードの皆さん、タフですな。


── カーン カーン カーン


「?」


なんだ?


「ギルドの緊急収集の鐘だ」


これか、確かシルカで鳴らしたってやつか。あの時は湯屋にいて聞いてないけど。


「俺が行ってくる。後は頼んだ」


一緒に作業していたテッドが無事な道を通ってギルドへと向かっていった。嫌な予感がするな。


空を見上げるが、そこには先程までの地獄のような光景はまるで嘘だったかのように、素晴らしい青空だけが残されていた。


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