山之都.7
しかし、あんな危険なものを置いておくわけにもいかず、結局持ってきてしまった。一緒に置いていた本は魔方陣の図鑑みたいなものだった。
とても詳しく魔方陣の事が書いてあって、それだけは凄く嬉かった。
『その玉とかどうするの?』
「鞄の中に入れとく」
『装備食べるとか言うのは?』
「……それは仕方ないから手に巻いとく」
適当に入れておいて、貴重なものが喰われたら困る。それに喰うのは装備。生物は喰わないと思うからなのと、呪いの装備なんで、反転でなんとかなら無いかなと思っての事だ。
記憶の玉は布でグルグル巻きにして仕舞った。装備はしてないから何とかなると思う。それにこいつは反転でどうなるのかわからないからな。『装着者の』ってのが『それ以外』になるかもしれないし、記憶を『消す』が『思い出す』になるかもしれないし。
それにしてもなんでこんなもん寄越したんだ。
呪いの装備だからか。
てか、呪いの装備ってみんなこんなんなのか。
「集めるの嫌になってきたな」
使いどころがわからない装備が一番困ることに気がついた。
「ま、いっか。ネコが飛べるようになったのは嬉しいし」
『ネコそのうちなんでもなれるようにして見せるぜ!』
今変化出来るのは、大きなネコ、小さなネコ、ネコ蛇と、翼の生えたネコだ。次は何を目指すのか。二足歩行のネコじゃないだろうな。
そうなったらモ⚫ハンだな。
そこまで想像して吹き掛けた。
『なに?』
「なんでも。さて、帰ろうか」
『肉三枚楽しみー!』
忘れてた。
練習にと、ネコは帰るときは全て飛んでいった。それを目撃した帰宅途中のアウソに見付かり、テンション高くネコは羽を弄くり回されていた。
最後は尻尾で殴られていたけどな。
「本気でなんでも有りになってきたわね」
キリコがクウカクの家で夕飯を食べながらネコの翼を注意深げに観察していた。今回、一晩しか泊まらないことを告げると、それなら家に泊まりなさいと来客用の部屋を貸してくれたのだ。今はクウカクの奥さんの手料理を振る舞ってもらっている。凄く美味しい。
ネコの羽はカラスのように黒いが、形状は鷲に似ていた。
そして体のわりに大きい。でも、オレを抱えて飛ぶにはちょうど良い大きさだった。
「それにしてもこんな面白い生き物が見れるなんて嬉しいな。それにお揃いの羽とは。帰ってくる途中子供達がネコが飛んだとはしゃぎ回ってたので何だろうとは思ってたんだが」
クウカクがウサギ肉のハーブ焼きを食べながらネコの羽をまじまじと見ている。
「まさか本当だったとは。これは娘にも見せたかったな…」
「娘さんいらっしゃるんですか」
そんな歳には見えなかったが。
「ああ、今は向こうの、禽居乘で修行を積んでいる」
「そうなんですか」
禽居乘はマテラと華宝の国境沿い、北の海に面している所にある小さな国で、天狗にとっての聖地らしい。
一定以上の飛力を持つ10歳以上のものが更なる力を得るための修行場所と聞いている。
「まぁ、今夜はゆっくりしていってくれ。寝心地は最高のはずだ」
夜も更け、そろそろ寝るかと寝室に行くと、ハンモックがぶら下がってた。なるほど、天狗にとっては確かに寝心地がよさそうだ。
『ネコ潰されそうだから棚で寝る』
「わかった。風邪引くなよ」
『引かねーよ』
さてと、と、皆が寝室に行き静かになった頃。
カリアがクウカクと奥さんのミツキの三人が酒を酌み交わしながら深く椅子に腰掛けた。
「そっちの今の仲間は弟子だけか?」
「そう。一応羅刹っていうパーティー名だけどね」
「ネームドか。最近多いな。そういえば、なんだったかな、スーパー……イリュージョン?とか何とか。そんな名前のパーティーがきてな、これを置いていった」
クウカクがとあるものをカリアに見せると、カリアは僅かに目を見開いた。
「これは……」
「見覚えがあるか?」
「ああ。……そうか、なるほど。それで、なんだって?」
「大陸の中心に気を付けろ、だとさ。近いうちにまた戦争が起こるから、だと。……カリア、どういうことなんだ?一体何が起こってる?それに戦争と、今回の襲撃は何か関係があるのか?」
カリアは一旦目を伏せ、クウカクとミツキを見た。
「どこから話そうか。ああ、そうだ。まずは、コッチが言ってた『始まりの剣』に関係するモノが見付かった」




