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INTEGRATE!~召喚されたら呪われてた件~  作者: 古嶺こいし
第一章 ホールデンにて
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情報収集

 兵士装備を外し、本当に必要なものを鞄に突っ込んでからフードを羽織るとあら不思議。冒険者っぽい兵士からただの村人へと早変わり。

 地味っていいね。

 これで先程勇者と一緒にいるところを見られた人もパッと見で気付かれることは無いだろう。ないと思いたい。


 ギルドを抜けて外へ出るとなんだか騒がしい。人が不安げにいったり来たり、そしてどうもで入り口の方に何かあるらしい、先程からそっち方面に走っている人が多い。

 確か村の外じゃなければ良いんだったな。よし行ってみるか。


 村人に着いていくと、何故か血の臭いがしてきた。

 周りにいる人の表情も険しい。

 人だかりの出来ているところまで行くと血の臭いはいっそう強まり、呻き声や叫び声が聞こえてくる。

 背伸びして人だかりの向こう側を見ると大声を出しながら走り回る村長の姿と血まみれの人達がいた。

 服装は冒険者たちとは違う防具をつけているところを見るやこの村の衛兵みたいな人たちみたいだ。


(でもなんであんなに負傷してんだ?何かの襲撃にでもあったのか?)


「あーあ、やっぱダメじゃん。誰だよ出来るって言った奴」

「これはもう諦めるしかないよ…今からでもきちんと報告すれば…」

「ばか!今さらだ。隠蔽の罪で殺されるに決まってる」


 あちらこちらから聞こえる会話に何があったのか理解した。


(なるほど。ラオラは取られてしまったが、せめてルツァだけでもって思ったんだろうが失敗した、という感じだな。だけど……)


 腕が折れている者。脚が捻れている者。意識がなく運ばれていく者。無事だった者も表情は曇り悔しげに歯を食い縛っていた。

 ルツァ、どんだけヤバイんだよ。

 これスイさんに報告するべきか。でも隠蔽の罪とかなんとかで村の人達が罰せられるのも何か嫌だし。


「え!?どうしたんだよ!これ!!」


 聞きなれた声がして顔を向けると反対側から人だかりの間から勇者の衣装がちらりと見えた。騒ぎを聞き付けたらしい。


「…………うわぁ、来たよ…」


 空気読めない勇者、シンゴが。略してK(空気読めない)Y(勇者)だな。


 シンゴは人だかりを力ずくで掻き分けて負傷者たちの元へと掛けていき、近くにいたボロボロの負傷者の肩を着かんで揺すぶり声をかけている。

 あまりにも強い力で揺すぶるもんだから、負傷者の頭がガックンガックンと前後へ揺れて抵抗ができないみたいだ。


「大丈夫か!?誰にやられたんだ!!」


 むしろその人今お前にとどめ刺されそうなんだが。

 止めに入りたいが距離がある。そして前方の人だかりも邪魔だ。シンゴのように何とかして向こう側にいけないか思ってたら村長が大慌てで走ってきた。その顔は蒼白で汗をかいている。

 そして周りにいる無事だった衛兵達もその事に気付いてシンゴを負傷者から離そうとするが、あいつは馬鹿力だ。離れない。


「やめてください!!その人頭を強く打ったんです!!動かさないで!!」

「なにいってんだ!なら早く治療しないとだろ!?なんで放置しているんだ!!」

「今運ぶものを持ってきているんです!!お願いしますから勇者様は下がっていて下さい!!」


 村長の必死で頭を下げる。

 しかしその技はシンゴに効かなかった。


「ふざけんな!!勇者だったらなおさら何かしなくちゃいけないだろ!!そうだ、スイさん!スイさん呼んでくる!!待ってて!!」

「お待ちください!勇者様!!」


 頭を強く打った人を放り投げてシンゴは再び人だかりを蹴散らしながら去っていった。


 嵐だな、あいつ。

 しかも悪い方の。


「…………」


 放り投げられた人は周りの人にキャッチされて無事だったが、村長は手を地面に着いて項垂れていた。なんかもう可哀想だ。

 スイがやって来たのはそれから十数分後。負傷者の半分が搬送された頃だった。

 その頃になると村長はやや復活し作業に当たっていたがスイの姿を見て再び顔面ブルーに逆戻り。そして村長はスイに何処かへと連行されてしまった。合掌。

  恐らく尋問を受けているだろう村長の安否を心配しつつ人だかりを離れてしばし村を歩き回った。


 村の入り口付近は店が多く、奥に進むにつれ住宅地へと変わっていく。そして塀近くは多くの畑が作られており、麦のようなものが風で揺れていた。そのとなりは葉野菜、そして果実が実る植物も育てられている。

 森の中にある畑はどういう植物が育てられているんだ?どう見てもここにあるもので十分食べていけると思うんだが。

 それとも畑が荒らされているのもデマ、とか。

 聞いてみた方が早いな。

 村の奥の方まで来てしまっていたので人は少ないが、畑で作業をしているおじいさんを見付けた。あの人に聞いてみよう。なんか優しそうな顔してるし。


「あの、すみません」

「アア!?」


 声をかけたら何故か睨まれた。怖い、優しそうな顔してるくせに声が全然優しくない。


「誰ねアンタ!村の奴じゃなかね!?」

「はい、そうです。他所から来ました」

「他所者がワイになんの用か!?」

「ちょっと聞きたいことがありまして」

「ワイの知ってることは少なかと!聞くなら他の者にしとけ!」


 ふいっと、おじいさんは顔を背け再び作業に戻ろうとするのを止めるため、慌ててオレは言う。


「作物の事なんですが」

「……作物ぅー?」


 胡散臭げな感じでおじいさんはオレをじろじろ見ると持っていたクワを放り投げ腕を組む。


「アンタ、“ボッカリュード”じゃねーな?」


 ボッカリュード?なんだそれ。


「いえ、違います」

「んだら、“ノカリュード”の方か?」

「それも違います」

「フンッ。なんなら何故そんな事訊きたがる」


「興味本意、という理由じゃ駄目ですかね?」


 興味本意の言葉におじいさんの眉毛がピクリと上がり、組まれていた腕が下がる。


「お前…、変わり者って言われねーか?」


 余計なお世話です。


「まぁいい。んで?何が聞きたい?ワイは忙しか、手短にしろよ」

「森の中にある畑にある作物の事です」

「ああ、オーリンのこと」

「オーリン?」


 聞いたことない野菜だな。


「お前オーリン知らんのか」


 信じられないという感じの顔をされた。

 そんなに有名だったの?


「はい、オーリンってなんなんですか?」

「オーリンってのは、手のひら一杯の大きさをした赤い果実だよ、甘酸っぱい、木に成る果実だ」

「へぇー、美味しいんですか?」

「美味しいなんてもんじゃない。土地から魔素を吸い上げて実の中に溜めるから、食べた者は魔力を回復させることができる。土地の魔素を食い尽くす悪魔の実なんて呼ばれている所もあるがな、ここはクローズの森だ。魔素をいくら吸っても尽きないし、溜め込む量も凄いから高級品だしの。それをガツガツ食いよってからに!ラオラめ!!」


 マジか。

 それは確かに荒らされたら腹立つわな。

 貴重な村の収入源でもあるだろう。


「ま、今回は勇者達が討伐してくれるっちゅーから安心だがな。冒険者たちはたまに取り逃がすことがあるけん。で?他に聞きたいことは?」

「いえ、ありがとうございました。助かりました」

「ほーか。なら、もういいかの?ワイは忙しいからな」


 シッシッと手をあっち行けと振られ、一礼してから去った。それにしてもオーリンか、ちょっとだけ食べてみたいな。


 村長を気にしつついったん宿屋に戻ると異様な空気に包まれていた。

 なんか、ピリピリとした良くない空気だった。


「?」


 ギルドもなんか気まずい雰囲気に包まれており、先ほどの騒がしさが一変、シーンと静まり返っていた。

 なんとなく原因はわかる気がするけど。


 階段を上がってドアノブに手をかけたところで中からなんかすごい音が聞こえた。何かがヘシ曲がったような、とにかくバキャとかメキャとかそんな系の音。

 入りたくない。けど入らないといけない。

 意を決して扉を開けると、何故か椅子が目の前に飛んできていた。

  椅子は顔の横すれすれを通過して後方の階段を転げ落ちていった。耳元で椅子が発生させた風と、転げ落ちた音を聴いて確信する。

 あれ、絶対壊れたな。


「ライハ様大丈夫ですか!?」

「うん…、ギリギリ大丈夫だった……」


 スイが慌てたように声をかけてきた。

 心臓は痛いくらいにバクバクしてるけど、大丈夫。というか、なんで椅子が飛んでくる事態に?


 視線を後方から前方へと戻すと原因はすぐ判明した。

 村長の胸ぐらを掴み上げているシンゴをユイが後ろから羽交い締めにし、シンゴの振り上げ ている右拳をスイが両腕でガッチリ止めていた。そしてその周りに気絶してるのかぐったりと倒れている数名の男達。

 そしてそのはるか後方、壁際で顔を真っ青にして怯えるコノンをノノハラが背に隠すように庇っていた。

 何があった?


「どうしたんですか?」

「話せば長くなる!まずはシンゴから村長を解放してからだ!」


 そう言ったユイが視線でシンゴに掴まれている村長を示すと、村長はちょうど襟が絞まっているのか顔色が大変悪い。なんかヤバそうだ。


「……わかりました」


 シンゴに近付き様子を見る。すごい形相だった。もっとも今は村長しか見えていないらしくこちらには見向きもしないが。

 とりあえず村長を解放してやりたいが、果たしてこの怪力に敵うのか。正当なやり方じゃあ無理な気がする。

 仕方がない、練習中の奥の手を使うか。


 掌を合わせて軽く擦り反復練習していた魔法の発動準備完了。


「とりあえず落ち着いて、いったん村長離そう。な?」


 トン、と右手をシンゴの村長を掴み上げている腕に当てた。その瞬間シンゴの腕が強い力で叩かれたように痙攣し、その衝撃で村長の胸ぐらから手が外れる。


「いったあああーッッ!!!」


 シンゴは凄く痛かったのか痙攣した方の腕を押さえて踞る。これで一安心。


「このっ!何すんだ!!」

「うわ!?」


 と思ったら標的が変わり、痛めた方の腕がすごい速度でこちらの襟を鷲掴み。

 ヤバイ、今度はオレがヤバイ。


「“少しでいい、時間をおくれ。大丈夫、居眠りでもして待っていれば、あっという間に終わるから《泡沫の夢》”」

「えっ」


 スイが早口で喋ったかと思えばシンゴが一瞬にして力を無くして両膝をつく。

 ユイが羽交い締めにしていたから倒れずにいたが、シンゴの首も完全に前方へと倒れてブラブラと揺れ、寝息を立ている。どうやら寝ているっぽい。

 魔物以外での精神系の睡眠魔法だ。初めて見た。


「ふぅ、何とか効きました。さて、ドムさん大丈夫ですか?」

「ゲホッゲホッ…、…ああ…なんとか…」


 尻餅をついている村長が激しく咳き込みながら返事を返した。


「で?お話の続きですが、説明してくれますね」


 ニッコリ。


 スイは素晴らしい笑顔だが、目が笑っておらずとても恐ろしい。その証拠に村長が再び顔を青くして意識を飛ばしそうになっていた。

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