素材を集めよ!.18
あのまま、大人しく帰れば良かったのに!!!
なんと、あの女性は何をトチ狂ったのか引き返して来やがった。しかも、オレを警戒してか後方10mほどの感覚を開けて着いてくる。怯えた目をしてこっちを見てる。なんなの?ほんとなんなの?怖いなら帰れよ!!
と、言いたかったが、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。地面に血の跡が残っていた。
まだ新しいもので、辺りの木の幹には刃物が擦れた跡が。戦闘があったらしい。
それに、壁が増えてきていた。まさに獲物が近くにいる証拠のように。
右を見ても左を見ても切れ目はない。
仕方なく木を登り、乗り越える。
ここらにある壁の厚さは掌程で、壁の近くがひんやりと冷気を放っていたから材質は氷だろうか?
── ドン
後方で何かがぶつかった音。
確認するまでもない。恐らくあの女性だ。
また何か喚くのかと思っていたら、何も無い。
「?」
振り返ろうとも思ったが、こちらが気付いていることを悟られてもめんどくさいので放置。
むしろあの壁でとうせんぼされてるなら都合がいい。頼むから来ないでくれ。
「── キャッ……」
ドサッと何かが落ちる音と小さな悲鳴が。
着いてきやがった。
僅かにカリアの足が早くなる。
よほどあの女性が嫌なのかと思ったら、そうではなかった。前方から、叫び声が。
すぐさま身体能力向上し、木に飛び乗り声の方向へ跳んでいく。声が切羽詰まったものになり、それと共に金属音が。
「やめろ!!やめろ!!やめろ!!」
木々の間に男の姿。それが何故か宙に浮き、何もない空間に必死に剣を振っている。だが、オレの目にはハッキリと、男の体を半分呑み込み持ち上げる壁が。その前には半透明から姿を表していく魔物が男の剣を尾で弾き飛ばし、腕へと噛み付こうとしていた。
「先攻します!」
「はいよ!」
手の中に弓ではなく、槍のような棒状の雷の塊が作られる。槍から放出される電流が腕にまとわりつきながら狙いを定め、次の枝に着地した勢いを乗せて投げ飛ばした。
手から離れた瞬間加速した雷の槍は、魔物の顔へと吸い込まれるように飛び、当たる直前槍が爆音を上げ、正四角形状にバラけて消えた。
当たる直前に壁が魔物の角から生まれて防いだのだ。
バキッと壁一面ににヒビが入り、崩壊した。
あの槍はスピードは矢ほども無いが、その代わり破壊力が増している。石に深めの穴が開く位だ。
こちらに気付いた魔物がこちらに向かって大きく角を振り上げた。角から魔力が溢れる。
「カリアさん!!壁が来ます!!」
「わかってる!!ライハは救出を!!」
「了解です!!」
カリアは拳を握り締め、そのまま魔物へと直進した。次の瞬間。魔物が勢いよく角を振り下ろすと、先程までとは比べ物にならないほどの分厚い壁が──もはや壁ではなく物体──カリアへと向けて放たれた。
オレはすぐさま枝から飛び降り、姿勢を低く草に身を隠しながら男のもとへと駆ける。
カリアは見えないはずの壁に向けて体制を変え、壁に着地をするようにして衝撃を和らげると、壁へと思いきり拳を放った。透明の壁一面にヒビが入り、白く変色をした。
それを見て魔物が嬉しそうに笑いながら足を軽やかにダンスをする。
そんな魔物の様子を見つつ、オレは男の体を固定している壁の裏に回り、全体を見る。今までの壁と変わらない。表面からは冷気を放っている。氷に似ているが、それとは違う物質。これはある程度の衝撃を加えれば崩壊するらしい。現に目の前ではカリアが壁をぶち破って襲い掛かってきていた。
だが、ヒビを入れたら男の体がどうなるのか分からない。
物は試しに指先に雷を刃物のような形にして触れると、バターのように切れた。
良かった。色々弱点があるみたいで。
刃物には弱いのかと思ったが、さっき短剣が弾かれたので、この電気の刃物の何かが反応しているらしいが、あとで考える事にしよう。
黒刀に雷を溜め、きちんと剣の形状へすると、男の体すれすれを切っていく。そこでようやく男がオレの存在に気付いた。口を開け掛け、オレは男に向かって静かにと、口に人差し指を添えた合図を送る。口を慌ててつぐむ男。
そうして、ようやく全体を切り取ることができると、壁が軋む音を立て始めた。
魔物が気付き振り替えるが、既にオレは男のを抱えて避難済み。
壁の破片がまだあちこちに残ってはいるが、後はこれで自力で破壊してくださいと短剣を渡しておいた。
「ありがとう、君は?」
「パーティー羅刹のライハです。危険ですので身を隠して安全を確保していてください」
そう言い残して、オレはカリアの援護へと向かった。