素材を集めよ!.16
「何モタモタしてるの!!早く殺しなさいよ!!!!」
甲高い声が耳をつんざき、森から鳥が驚いて飛び立った。
その一瞬の隙で、目の前にいた魔物が黒板を爪で素早く引っ掻いたような音を大音量で発生させ、姿が消えた。
水面に写った風景を手を突っ込んで掻き消した時のように姿がバラけ、あっという間に消えたのだ。
「!!!」
カリアが何かに気付いて剣を振り上げると、剣に硬いものが接触してぶれる。前にザラキが言ってた光彩魔法か!
急いで粒子モードへと切り替えると、カリアのすぐ側を走り去ろうとする魔物の姿が。
「逃がすか!!」
短剣を取り出し魔物に向かって投げたが、途中見えない何かに阻まれて弾き返された。
「…………チッ……」
魔物の姿は完全に消えてしまった。
それにしても。
もう少しで狩れたのに、邪魔をしやがってと怒りが込み上げた。オレは基本的にそうそうキレないタイプ(と思ってる)だが、今回の奴は最高にムカついた。
振り替えると、女性は眉間にシワを寄せこちらを睨み付けている。
「何よ、その目は。何か私に文句でもあるっての?」
「逆に文句がないとでも?」
「……は?なに?あんた依頼されて来たんでしょ?依頼主の娘に向かってその態度は無いんじゃないの? いい!?私に文句があるってことはね!お父様に文句があるってことなのよ!?少しでもお金が欲しいのならぺこぺこして媚びへつらっていなさいよ!!」
どうよ、立場が分かったかしら?と締めくくり、腰に手を当て見下す女性。なんだこいつ。怒り通り越して呆れたんだけど。
「ねぇ……」
ポンと肩に手が置かれ、背中側にぞわりと鳥肌が立った。
見ると、カリアが静かにキレていた。
何の表情もなく、カリアの口から無機質を連想させるほど冷たい音が飛び出す。
「何か勘違いしているようだから言うけど、貴女、誰?」
「………………え?」
ぽかんと女性がカリアを見上げる。
「何の依頼か知らないし、貴女のランクも知らないけどね、仲間を心配もせず、しかも他所のパーティーの狩の邪魔をしてどういうつもり?」
「…………お父様から、……依頼を受けて助けに……来たんじゃないの……?」
ここでようやく女性が何かの間違えに気づき始めたようだ。先程までの見下した顔がみるみるうちに青ざめていった。
そしてカリアの指が肩に食い込む。痛い痛い。
「お父様って誰の事?そもそも、人の狩の邪魔をするってことは、どういうことになるかも知らないの?」
「な、なによ!脅すつもり!?言っとくけど、私が一言お父様に言えば、すぐにあんた達みたいな浮浪者を消すことだって容易いのよ!!ランク言ってみなさいよ!!私はこれでもCよ!!高ランクハンターなのよ!敬いなさい!!」
女性がハンター登録証を取り出し掲げる。そこには確かにC-の文字。
でも、なんか腑に落ちないんだよな。
この人の格好といい、立ち姿といい。違和感だからけ。
「そう」
興味無さそうに一言言うと、カリアも胸元からハンター登録証を指先で引きずり出して、女性に見えるようにした。
「コッチはAA-だけど。高ランクハンターがなんだって?」
「………………」
予想外だったのか、口を閉ざす女性。
オレの怒りは既に吹っ飛んでいて、今はただただカリアが怖くて肩が痛い。
そんな時。
「カリアさんダメです!!街に一旦戻らないと助かりません!!」
手当てをしていたアウソが叫ぶようにして言う。目を向け、ようやくオレはその男性の足が喰われてしまっているのに気が付いた。
「…………二手に別れるよ。コッチとライハが討伐。キリコとアウソが街に帰還。ネコ、あの人の出血を形状を変化させて止められない?」
『出来るとは思うけど…』
ネコがこちらを見る。
「オレは大丈夫だ。ネコは凄いからな、きっと傷口を覆って完璧に止血してくれるって信じてるよ」
『わかった…』
ネコは尾を帯状にすると、出血箇所を包帯のように巻いていく。本当は傷引き取りも出来れば、オレの魔力も流して治療できるが、この技はオレとネコの間でしか出来ない。
「あんたも降りなさい」
「はあ?なんで私があんたの言うこと聞かなくちゃいけないのよ!!」
「今なら安全に下山できる好機だけど、それを決めるのは貴女。コッチにもやることがあるからね。好きにしなさい」
手がようやく肩から離れた。
カリアさんよほど邪魔されたの嫌だったんだな。そうだよな、あのくらいならあそこで解決出来たものだったのに。
また探し直しか。
思わず、ため息が溢れる。
不満な顔のキリコをカリアが説得し、アウソの背中に男性をくくりつけるのを手伝った。しかし、まさかあの薬屋で買った薬草がさっそく役に立つとはな。
「ネコ、おねがいな」
アウソの肩に乗っかるネコを撫でる。
『繋げっぱなしだから、何かあったらすぐに呼ぶんだぞ!』
「わかった。気を付けて。アウソも頼んだ」
「任せとけ!すぐに戻ってくるさ!」
三人と一匹を見送り、オレとカリアは気を入れ直して森の奥へと消えた獲物を追い掛けた。
「……」
そしてその後ろを、機嫌の悪い顔のまま女性も何故か着いて来ていたのだった。




