ウズルマ村
途中で重さで抜けて落ちないものかとひやひやしたが、この橋思った以上に丈夫だった。
村を貫くような大きめの道を行き、広場についた所で竜車が止まる。
スイに続き竜車を下りると村人達が集まってきていた。
好奇心旺盛の子供達がこちらに来ようとするのを母親が止め、老人達が胡散臭そうな顔をしてこちらを見ている。
歓迎されてる雰囲気ではないな。
その時人混みが割れ、一人の男性が現れた。
「ようこそお越しくださいました。勇者様方」
その男性は軽く一礼するとオレ達を見回す。そしてスイを見ると再び一礼した。
「私はウズルマの村長、カザン・ドムです。この度は依頼を受けてくださりありがとうございます」
「いえ、 こういった魔物被害を食い止めるのも国の務めですからね。私は勇者の補佐をしておりますユズラン・スイと申しますスイとお呼びください。そして右からアヤ様、コノン様、シンゴ様、ユイ様、ライハ様です。今回召喚された勇者様でして、皆優秀ですのでご安心下さい」
「おお!まさか勇者様全員お越しくださるとは!いやぁ感激しております!」
驚いたような顔をした村長はオレ達をじっくりと見た。なんだろ、この観察されている感じは。
頭から足先、そして服装、腰に差している得物と視線が動く。
笑顔なんだが、何故かちょっと怖い。
全員見終えると村長は近くにいる人へ目配せするとその人は人混みの中へ静かに消えていき、村長は再びこちらへと視線を戻した。
「ささ!皆さま大変お疲れでしょう!休憩出来る場所をご用意しておりますので、ゆっくり休んでいってください!」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」
スイの目配せで移動を開始する。従者の方は竜車移動のために一旦ここで別れた。
着いたのは三階建ての屋敷。
周りの家と比べても立派なもので、入り口には国旗とスティータ神の神聖結晶マーク。なんだろう、この国はあらゆる所に国旗を掲げないといけない法律でもあるのか?
一階は何かの受付所らしく村長の案内のもとそこを素通りして奥の階段へ。三階へと上がり、突き当たりの部屋へと案内された。
見た感じお偉いさん達を泊める所のようで、城ほどではないにしろ高そうな家具や置物が設置されている。
「ここの奥にさらに小さい部屋が幾つかございますので寝室としてお使いください」
ということはここはリビング的な感じか。
あちこち観察しているとシンゴの姿が消えていた。
何処にいったのだろう。
「おお!この木彫り人形カッケー!!」
奥の部屋に突撃してたらしい。何かを見つけたようで興奮を押さえられない声が聞こえてきた。
台所がないな、と言うことはご飯は別のところで食べるのか。
そんな事を考えながらスイを見ると村長と何やら会話中だった。
そして話終えると先ほど何処かへ言っていた村人が訪ねてきて村長に耳打ちすると慌てたように村長が一礼して去っていった。なんか、あの村長忙しそうだな。
「皆さん集まってください」
スイが手を打ち集合をかけると、その音を聴いてお喋りしていたノノハラとコノンは話をやめてシンゴも奥から走ってきた。
「今日はここで一泊し、翌日の早朝から森に入って討伐を行います」
「今日はもう自由に行動しても良いんですか?」
ユイが質問するとスイが頷く。
「本日一杯は各自自由にしていてください。ただし村の外に出ないのと、攻撃魔法の使用は禁止で。それ以外でしたら好きにしてください。何かありましたら私はここに居りますからいつでも訪ねてくださいね」
それからいくつかの条件を出して解放された。
さて、どうしようか。
シンゴは真っ先に村へ飛び出していったし、ノノハラとコノンは荷物を整理するとかで奥の部屋へ消えた。
ユイはスイに伝えることがあると言うことで隣の部屋へと連行された。
ここにこもっていても仕方がないし、暇だから村へと出掛ける事にした。
階段をおりて一階へと辿り着くと、先ほどよりも人が増えていた。
皆体つきがでかく、装備が充実している。もちろん細い人もいるがそういう人でさえ唯一見えている腕の筋肉の付き方が凄い。
なんか村人というより冒険者みたいだな。
ちょっとした好奇心でカウンター付近をウロウロしていると紙で埋め尽くされて壁を見つけたので行ってみる。壁を埋め尽くす紙には“依頼書”の文字。見てみると魔獣討伐依頼や助っ人募集や近隣の魔獣分布情報調査依頼などの内容で、ここでようやくここがどういう所なのかを知った。
「ここ…ギルドか」
「ん?坊主知らなかったのか?」
「!」
独り言のつもりで呟いたら返事が返ってきて驚き、軽く肩が跳ねた。
声の方を見ると高身長の男性がすぐ隣に居た。
「今日来たばかりなので」
「そうか、まぁ俺達も昨日着いたばかりなんだがな。ラオラを狙ってきたんだが…着いたらもう取られててな、見ろよあの大きい紙」
「大きい紙?」
男の視線を追うと壁の高いところに貼り付けられていた紙を見てみるとラオラ討伐の文字がある。
「どうも今回召喚された勇者の経験値を上げるために取られたんだとよ。ったく、久しぶりのルツァ・ラオラだってのに、ついてねーや」
「ルツァ・ラオラ?」
「ルツァ種だよ。ルツァ種。ん?もしかしてそれも知らねーのか?」
「いやぁ、はい」
男は眉を潜めながらオレを頭から爪先までを流し見た。
もしかして冒険者とか思われてるのか。
「ふーん、そんな服装してるからお前も冒険者だと思ったんだがな。もしかして成りたてか」
「そんなところです」
「じゃあ知らなくて仕方ねーな。滅多にいねーし。ルツァってのは変異種の事だ。原種って説もあるが、普通の群れに混ざって異様にデカイ、もしくは強い個体の事を言うんだ。数が少なくて珍しいもんで、討伐して売れば大金が入るんだよ」
言うなればレアのメタルスラ●ム的なもんか。ん?でもスイさん一言もそんなこと言ってなかったな。
何気なく貼られたラオラ討伐の依頼書に目を通してもそんな記述は一言もない。なのになんでルツァ・ラオラがいると言う情報を知っているのか。
「そんな記述無いですけど、本当にそのルツァ・ラオラがいるんですか?」
そう言うと男が鼻で笑った。
「俺ぁここらの調査隊のコネがあんだよ。これでもパーティリーダーだからな」
そしてドヤ顔。嘘ではないのかな。
「俺の知り合いの調査隊がな、ラオラの偵察に行ったんだよ、そしたらな普通のラオラの群れかと思いきやその奥の方にボスがいやがったんだ。普通のボスじゃねぇ、ありゃ確実に先祖帰りを起こしているルツァだ。そんでこの人数じゃ見付かったら轢き殺されるってんで慌てて戻ってきたらしい。ウケるだろ、ネズミの群れのなかに虎が居た気分だったとさ」
ガハハハハと盛大に笑う男に、周囲の男共も話を聞いていたのか笑い始めた。
「おっと、この話はここだけの話だ。ルツァが居たってことは上には内緒にしてんだからな、もちろん首都から来たあいつらにも」
「なんでですか?」
「そりゃ…これだよ。上の奴らはケチなうえに信用ならんからな。もちろん勇者の野郎もあいつらに都合のいい教育をされてるはずだしな」
口許に人差し指を立て、手で輪を作ったものを服のなかに隠す仕種。通称ネコババのサインをした。
そうか、危険度の低いラオラ討伐で依頼して、数が多いことを理由に数パーティでタッグを組んで内緒でルツァを討伐。そして偶然討伐したということにしてそれを高額で売り払ってから皆で分けるって感じか。
もしかして、この村の雰囲気が悪いのって、貴重な収入源を勇者に取られたからかもしれないな。こりゃ勇者と名乗らなくて正解だったかもしれない。
「なるほど、ちなみにルツァってのはどのくらいで売れるんですか?」
「うーん、時期とか種族にもよるけどな…。だいたい正規の5倍か6倍…、もっと凄いのは一生掛かっても使いきれないほどだ!ルツァだけを狙っているやつらもいるくらいだし。まぁ、一種の賭けみたいなもんだから大抵死ぬやつの方が多いな!」
たかが賭けなのにデッド・オア・アライブとか、この世界怖い。
「命懸けなんですね、オレは無理そうです」
「ガハハハハ!!お前さんは若いしな!初めは無理せずコツコツ頑張りな!ガハハハハ!!」
そうして男は高笑いをしながら去っていった。
着替えてくるか。厄介事を避けるために元来た道を引き返した。