素材を集めよ!.8
依頼を出した村長に、森に白ではなく、黒・角兎が出たことを告げると血の気を無くした顔で急いで村人たちに避難勧告を出していた。どうやら以前にも何回か黒同士で激闘になり、この村にも被害が出たらしい。
この村、完全に縄張りが被ってるのかよ。それなのに引っ越したりせずに、地下室を作り上げて住み続ける村人も凄いけどな。
「?」
またなんかアウソが違う方向を見ているなと思ったら、案の定また壁に掛けられた絵を見ていた。
君そんなに絵に興味を持つっけ?
一体どんな絵だとオレも見てみると、そこには剣を振りかざす美女の絵が。背後の山が平らで、更にその上の雲までもがまっぷたつになっているところを見るに、これは初代勇者の山真っ二つ事件の絵なのだろう。神と少し容姿は違うが、言い伝えなんてこんなもんだ。この村から見えた山の上の方が平らだった気がするけど。まさかその話の場所がここの地域での話だったとかかな。
日本だったら、なんか、デフォルメされた勇者が山を切ったイラストの包装紙で、山切饅頭とか売られてそうだ。
そういえば、サプの村にも絵があったけど、あれは違う絵だったな。確か、美しい緑の大地が手前、奥がエメラルドグリーンの海で、その地平線の先から黒い入道雲が雷を纏いながら競り上がってくる絵だった。
どちらの絵も幻想的で、それなのに何かの感情が沸き上がってくる不思議なものだった。
ここの国の村の村長の家には必ずそういう絵が飾られるのか?
「それでは、討伐に行ってきますので、安全が確保されるまでは村の外には出ないで下さいね」
「分かりました。よろしくお願いします」
カリアとアーリャが村長との話し合いが終わり、ようやく、狩の時間がやって来た。
「じゃーんけーん!!ぽんっ!!」
「何してらっしゃるんですか?」
森の入り口で武器を担ぎながら四人で役割分担を決めていると、アーリャが不思議そうな顔をして訊ねてきた。
「これは陽動を決めているんですよ」
「え!いつも決まっているのではないのですか?」
アーリャが驚くのも無理はない。通常パーティーというものは、狩人にはだいたいが得意な武器によって決められた役割があって、それをパーティーに参加する前に告げ、合意を得てパーティーへと仲間入りをするものだ。
だが、オレ達の場合。
カリア(師匠)
キリコ(弟子①)
アウソ(弟子②)
オレ(弟子③)
という師弟のみで構成された異例のパーティーなので、弟子を育てるためにもどの役割でも対応できるようにしているのだ。
ほら、一応万が一というのがあるし。
「いつも役割を変えてます、違う視点で戦うのも楽しいですし」
「うちはみんな戦い方が違うので、どんな状況になっても大丈夫なようにしてるんですよ」
「なるほど」
アーリャは感心したようだった。
だが。
『(ネコのけ者~)』
ネコは参加でき無いので、不満がたまっているようだった。
「(ごめんって、仕方ないじゃんかよ。エルトゥフの時はなんとか誤魔化せたけど、この人は何となく無理な気がする)」
クアブの助言に従い、魔力と一緒に気配も消す努力をしているが、恐らくただの動物とは思われていないだろう。これは完全に勘の領域なのだが、アーリャから視線のようなものを感じるのだ。アーリャはこちらを向いていないのに、意識がこちらを向き、探られているような感覚がする。だから必要最低限だが、人に無害なものだとアピールをしている。それをネコは分かっているが、やはり会話に参加できないのは辛いんだろう。先程から八つ当たりのように尻尾の先が背中にぶつけてきて痛い。
『(……わかってるよ。でも、肉は貰うからね!)』
「(はいはい)」
今回の囮はアウソ。キリコとオレが仕留める役で、カリアがアーリャの近くで緊急時対応が出来るような役割になった。
分かりやすい角兎の跡を追い、姿を見付けて身を低くする。そして、ハズデ手語でもう一度軽く打ち合わせを済ませると、アウソは音を立てないようにしながら、ゆっくりと角兎へと接近していく。
そろそろと身を低くしていく姿はさながら蛇のようだ。
ようやく限界距離まで接近すると、アウソは槍を振り上げながら立ち上がった。槍の先から水が生まれ、角兎の瞳へと直撃した。
『ビギャアーーーーッッ!!!』
あまりの痛みに悲鳴を上げる角兎。アウソは水神の宝玉の練習をしまくってなんとバケツ一杯分の水を放出することができるようになっていた。しかも、その水は大量の塩分を含んでいる。
そう、出てきたのは何故か海水だった。
その海水が目に直撃。どれくらい痛いかは言わなくても分かるまい。
『ビギイイイイイ!!!!』
案の定激怒した角兎が既に逃げ出していたアウソに向かって角を構え、跳んだ。