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火種蟲

エルトゥフ達が村の溜め池に集まっていた。生活に使う水は全てここから使う、村の命の水でもあった。


「長老様!!」


クユーシーが集まるエルトゥフの中に長老を見付けて駆け寄る。エルトゥフ達は向かってくるオレ達に驚いて道を開けてくれたので、息を切らしたクユーシーがウンディーネの泉と同じように酷く濁った村の溜め池に気付いて愕然としていた。


少し遅れてオレ達も溜め池に目をやる。ウンディーネの泉よりもまだマシかと思うが、恐らくこの泉もそのうち同じようになるのだろう。


クユーシーがウンディーネの異状事態を話、それを聞いたエルトゥフ達が「そんな…」と長い耳を下げた。


「ウンディーネの泉が…」

「どうするんだ。この森はウンディーネの泉と深く繋がっている。何とかしなければ三日と持たないぞ」

「しかし、俺達はともかく精霊達はどうするんだ?置いていくなんてできないぞ」


ザワザワと話し合うエルトゥフ達を掻き分けて長老とクアブがこちらへとやって来た。


「底で見付けた蟲は一体どのようなやつだった?」


「これです」


アウソの槍に突き刺さったままのゴキブリモドキを見た瞬間、エルトゥフ達が悲鳴をあげて一斉退却し、クアブもドン引きした表情をしたのに対し、長老は瞬時に顔が青ざめ叫ぶように言った。


「火種蟲だ!皆のもの!!火を決して近付けるな!!」


火種蟲?なんだそれは?

首を傾けつつアウソを見ると、なんとアウソも長老と同じくらいに青ざめていた。え、この蟲そんなにヤバイやつなの?


緊急事態の為火を起こすことが出来ず、食事は生か冷たいもののみとなった。元々肉はほとんど無い精進料理のような感じだったから。獣人ガラージャのところで出た芋虫が出なかっただけマシか。


クユーシー含むアールヴが精霊達にお願いをして、夜に備えて部屋の中に光を下ろしてもらっている。まだ日があるからいいが、夜になると相当暗くなるんだろうな。


「長老様、火種蟲が出たというのは本当に?」


カリアが信じられないという顔をしている。

それに対し長老は暗い声で「そうだ」と返した。


火種蟲とは、第二次人魔大戦時にこちら側にもっとも被害を与えた災害の一つである。


火種蟲は土を食べ、排出する物体が油を多く含んでいる。かなりのスピードで増殖し、その排出物が水を、そして土を汚染する。そして汚染された土からは可燃性の高いガスを放出するので、火をつけるとその一帯が火の海になってしまう。


しかもその火種蟲は土に潜って殖えるので、何処まで汚染されているのかが分からない。


ただ、一つ分かっているのは水まで汚染されてしまえば、その土地は終わりだということくらいだ。

火種蟲は土を食べるが、それは通常時で、地下に密集していた火種蟲が新たな餌を求めて地上へと沸きだし森の木をもさぼり食っていたという話もあった。もっとも消えたその土地は草も生えない黒い沼になり、今ではドワーフやコボルト、一部の鍛冶屋が喜ぶ不毛の土地になっている。


喜んでいる原因は、沼周辺で取れる燃える石らしいが、それ以外の人々にとっては大迷惑なものだ。


「戦場でもあの蟲は大活躍でね、あらかじめ地面に仕込んでおいて、魔術師や兵士が火を使った瞬間足元からの大爆発で何人も死んだんよ」


地雷並みに怖い。


「前はどうやって退治したんですか?」


「ああ、それは…」


カリアがちらりとネコを見る。


「一気に土丸ごとひっくり返してわざと火を着けて事前に爆発させてたね。あのときは本気で対処法が無かったから力業だったとか言ってたよ」


「俺んところも大発生して大変だったらしいさ。人が何人も吹き飛んで。まぁこっちは龍の縄張りで雨も多かったから汚染はそこまでじゃなかったけど、しばらくは森のなかがスライムだらけになって駆除が大変だったらしい。しかし、こんな姿だったのか…、名前しか知らんかったけど…」


「…ねぇ、質問なんだけど、なんでスライム?」


「さあ?わからんけど死体を食うスライムもいるし、あの凄い臭いに釣られて来たんじゃね?スライムの生態はよくわからん」


頬杖を付き考え込む長老。


しかし、長老は立ち上がるとオレ達の前に座り、鮮やかな朱色の石飾りを取り出した。


「…この、紅珊瑚の飾りは返す」


「長老?」


クアブが驚いた顔をし、アウソもまた困惑した顔をした。


「いえ、それは先日助けてもらう為に手渡した物です。それを返されるなんて」


「いや、違うな。これは儂らからの頼みで返す物だ。もはや恩を貸し借りしておる場合じゃないのはわかっておる。そもそも、あの悪魔の問題とて儂らエルトゥフ達が問題すべき事だった。それをほんの小さな手助けでこんな素晴らしいものを対価として貰うべきではない。本来ならば、儂らこそがお主らに贈るのが正しい。…そして、まこと勝手な事だが、もはやお主らにしか頼む他無い」


長老が床に手を着く。


それをオレ達は驚いた顔で見ているしかなかった。


「頼む!儂らを、助けてくだされ!」

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