エルトゥフの森での攻防.8
火の海の中、二人して鬼の形相をしながら無我夢中で何かを砕いている。攻撃対象は黒いゴツゴツとした石だが、何だろう。あれ。
バキンと一際大きいヒビが入り、そのヒビから黒い煙が小さく吹き出して霧散した。
その瞬間、黒い石も端の方から崩れていき、遂にはただの黒い砂と化した。
「はぁーーっ!はぁーーっ!はぁーーっ!…勝った!!」
「とうとう…やりましたね!!」
キリコとアウソが達成感に満ちた顔で強く握手を交わす。二人の顔には煤が着いていて、まるで戦場を生き残った戦士のような顔をしている。
いや実際にそうなんだろうけど。
「お疲れさん、無事じゃないけど元気そうで何よりよ」
「師匠、そっちも終わったの──、!?」
キリコがこっちを二度見した。
アウソに至ってはガン見している。
いや、原因わかってるけどさ。
「……なんでそうなったか聞いてほしい?それ」
と、キリコがオレの角に視線を向けながら言う。
「出来ることならばオレもよくわからないので無視してくれるとありがたいです」
「そう?じゃあ無視するわね」
そう言うと二人は角をガン見するのを止めてくれた。
こんなとき、この人達が仲間で良かったなって思う。程よく放置されるし、難なく受け入れてくれるの。オレにはとても嬉しいです。
その後、各々手当てしながらお互いの情報を交換した。
キリコ達とリュニーの戦闘は苦戦したらしい。
リュニーは火の玉を発射する魚の尾を持つインコなのだが、なんとこいつ、インコの姿はただの殻みたいなもので本体は爪ほどしかない物体だったらしい。
どこを攻撃しても、本体がすぐさま火の玉を空に打ち出すとき一緒に乗り移って分身を作るのでなかなかダメージを与えられず、ギリギリ攻撃が届かない高さから火の玉を撃ちまくってくるし、たまに急降下で爪で切り裂こうとしてくるので苛立ちが半端なかったという。
ちなみにその時の流れ弾がオレに当たったらしい。
二人とも上しか見てなかったし、オレもチハに集中して周りを見てなかった事による事故なので反省してます。
「どれくらい落としたの?」
「えーと…」
アウソが指を折りつつ数えた。
「24回」
「だいぶ頑張ったな」
全力で拍手を贈りたい。
それでも頭を使って地道に落としていたら、とうとう空から降りてこなくなってしまい、どうしようと困っていたらウンディーネ本体が後ろからリュニーを捕獲してくれたと言う。
リュニーは水で冷やされると外側から黒く石のように固まって、飛べなくなるし火も出せなくなるようだった。
「そういえばウンディーネはどうしたよ?」
周りを見渡してもコップ程の水の塊すら無い。
そうカリアが言うと二人から落ち込んだ空気が漂ってきた。
「それが、リュニーを固まらせる事と引き換えに蒸発してしまったんさ…」
「最後の水でこの火の海から外には燃え広がらないようにしてくれたみたいなんだけど…」
キリコの視線を追うと、確かに火の海の周りに水が撒かれていてこれ以上燃え広がらないようにしてあった。
それにしても、蒸発って。
水の精霊だとしても大丈夫なのだろうか。
凄く心配ではあるが、今は確かめる術はない。
「それでさっきリュニーだった石を砕いて本体を破壊しようとしてたの。…少し憂さ晴らしもあったけど…」
「二人とも怖い顔してましたもんね」
鬼のようだった。
双方情報を交換して、怪我の影響を確認した。
キリコやカリアは特に問題は無いが、アウソの腕の火傷が気になる。
「正直な感想をいっていい?」
「どうぞ」
「めちゃめちゃ痛い」
「だろうな」
それで痛くなかったら逆にヤバい。
神経死んでる可能性出てくる。
「でもまだ戦えなくはない。幸いにもエルトゥフは回復魔法系使えるらしいし!」
「それでも無理して死んだら、後で殺すからね。それだけは頭に入れとくよ」
カリアに無理は厳禁と釘を刺される。
「あんたもよ、ソレの後遺症がよくわからんから、ヤバいと思ったら即座に撤退するからね」
オレも釘を刺された。
了解です。
さて、武器を持ち、移動を始めたオレ達だが、さっきよりも更に警戒して進むことにした。
それは、二体の悪魔の言葉が原因だった。
チハは途中「命令されてるから」と言った。
誰から命令されているのか?
そしてリュニーもウンディーネに攻撃される超然に「報告しよう」という言葉を漏らしたらしい。
確認されている悪魔は三体。
グラド、チハ、リュニーで既に揃ってはいるが、もし更にその三体に命令を下せる強い悪魔が亀裂の近くにいたら?
(きっと、皆無傷ではいかないだろう)
チハとリュニーでさえ、オレはこの変な能力が無ければ死んでいたはずだ。
傷はもう癒えてはいるが、対炎対策のウンディーネは蒸発によってもういない。
カリアは無理をするなと言ったが、何があるかは分からないのだ。オレは勇者に選ばれてはいるが、残念ながら心はただの臆病な人間で、死ぬのは怖い。
でも、仲間が死ぬのはもっと怖い。
卑怯だとしても、万が一の時の為に、使える手は全力で活用させてもらおう。