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INTEGRATE!~召喚されたら呪われてた件~  作者: 古嶺こいし
第一章 ホールデンにて
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召集

 青い月が出ていた。

 この辺はこの季節になると北東にある国から大量の魔素を含んだ風が吹き、それが東の国境にある山脈にぶつかって溜まる事で月の光を変えていた。

 もう少し寒くなれば上空で魔素が結晶化、スティシア神の雫となってこの国に降り注ぐのだ。

 濃厚な魔力が満ち、全てを白く塗り潰す。

 その時の光景だけはこの国に来て良かったとタゴスが思えるのだ。


「……」


 冷たい風が吹いてきた。

 タゴスはフード付きのコートを更に体に巻き付けて先を急ぐ。約束の時間が迫っていた。


 誰もいない廊下を極力足音を抑えて走る。魔力も漏らさぬように気を付け、辺りの気配にも気を配る。

 目的の扉が見えてきたところで息を整えた。

 薄暗い廊下にある古い扉には召喚師の紋、横楕円に矢が貫いている絵が描かれていた。静かに近付くと辺りの気配をもう一度確認してからノックする。

 音は魔法で聞こえないようになっているが、中には確実に聞こえているだろう。

 扉の中の気配が近付いて来たのを感じる。


「…タゴスです」


 天井から視線を感じる。

 ぬるりとした舐め回す視線を無言で耐えた。

 この視線は人のものではない。召喚された魔物のものだった。


「入れ」


 許可が降り、タゴスは扉を静かに押し開いた。

 光魔法の灯火が奥にいる三人を柔らかく照らす。

 三人ともフードを深く被り、額にスティシア神の飾り、首もとには魔法石が嵌め込まれた大きめの首飾りが光を反射して煌めいていた。

 その中の背が高い一人がタゴスを確認して口を開いた。


「タゴス、良く来てくれました」


 頷くタゴス。しかしその顔は不機嫌そうだ。

 再び顔をあげるとタゴスは目の前の人物を睨むように見る。


「何の用ですか?貴方がオレを呼ぶなんて」


 ウロ様、と。

 呼ばれた人物は静かに微笑んだ。








□□□










  雨。

 ここ数日降り続いている雨のせいで体が気だるくて仕方がない。

 雨はもともとそんなに好きではないのだけれども、この世界に来て体質が変わったらしい。怠くて動くのが億劫なほどだ。


「体調がよろしくない……」


 独り言のように呟いたらサコネが答えた。


「多分、それ雨に含まれている魔素をこの国の結界によって神聖属性を付加しているせいかもね。ライハにとっては毒の雨」


 まじか、また神聖魔法か。この国はとことんオレに優しくない。


「あー、もー、ほんとやだもう」

「口調がキモい」

「悪かったな」

「良いからさっさと練習しろ、もう一度最初からね」

「へいへい」


 口調が日が経つごとに悪くなるサコネの言葉に従って両掌を20cmほど離して向き合わす。

 その間をキラキラが走るようにイメージしつつ魔力を流すと弱々しいながらも青い電気が両掌に数本架け橋を作っていた。

 この状態を維持する。

 一分、二分までは安定していたのだが、三分を越えた辺りから急に不安定にあり、四分を数える前に掻き消えた。


「キッツい…」


 一気に流れ出た汗を腕で拭いながら手元の紙に維持できた時間を書き留めた。

 この数日間ろくな訓練も出来ずに、何故か上の方に呼ばれているとか何とかでウロと解呪すら出来ないのでずっと魔法の練習をしていたのだが、ほんのちょっとずつだけど成果が現れ始めていた。


 しかも最近気付いた事ではあるけれど、解呪の儀式には大量の魔力を消費している事がわかった。

 解呪の後に魔法を発動させようとすると一、二回が限度だが、解呪が無いときだと連続して十回は発動できる。

 休息を入れるともっとできる。

 これから分かったことなのだが、オレは魔力量が少ないわけではないらしい。

 少ない奴は発動が一回か、もしくは数日に一回とかそんなもん。

 本に書いてたから間違いない。


 あともう一つ分かった事。

 この世界には魔力無しと呼ばれる人達の方が多い。

 この人達は、生きるための魔力はあるけども、魔法を発動させる程にはない人達の事。

 他にも魔法を使えないけどやたら魔力耐性あったり、魔法を道具で補う人達も居るとか。

 異世界不思議だね!


 その時、扉をノックする音が聞こえて顔をあげる。

 誰だろう。

 扉を開けようと立ち上がるとサコネがこそこそ物音を立てないようにベッドの下に潜り込んでいた。

 さてはこいつサボタージュ中だったのか。


 サコネが隠れたのを確認してからドアを開けるとメイドが居た。メイドは軽く頭を下げる。


「ライハ様、スイ様がお呼びです。後に迎えの者を寄越しますので出掛ける準備をして下さい」

「え、出掛けるって何処に?」

「勇者様の緊急集令です」


  分かりましたと答えてから扉を閉める。

 足音が消えていくとベッドの下からサコネが出てきた。手には漫画、最近の通常装備品と化しているようだ。


「サコネ」

「んー?」


 再びベッドに腰掛けパラパラと漫画を開いていくサコネ。


「スイさんって、誰だっけ?」

「あ?」


 はぁ?見たいな顔をしてサコネが顔を上げてオレを見た。その顔止めて地味に傷付く。

 その後何か思い出したのか、ああー、とサコネは変な声をあげた。


「そうか、そう言えばライハは解呪ばかりで勇者の訓練行ってなかったね。スイはそこの訓練長」

「へぇ」

「ソロ隊長の親戚ね」

「え!!?ソロ隊長の!?」


 戦闘狂いのソロ隊長兼教官。

 オレに色々装備品をくれたおっかない顔をした気の良いオッサンだ。とすると、そのスイさんもソロ隊長並みに強いに違いない。


「ムキムキかな?」

「んー、いや。意外とスマート…。でも何で緊急集令……」

「なんかお知らせとか?」


 何か問題が起きていたとしても未だ解呪出来てないオレに出来る事なんか無さそうだけど。

 まぁ、それは後で考えるとして。準備しなくちゃな。


「準備…。勇者らしい準備って…どうするの?」

「普通で良いんじゃない?念の為遠征行くくらいの荷物は持ってたら?ソロから装備一式は持ってるでしょー?」


 兵士用装備一式は確かにあります。けど、いいのかそれで。


「……」


 とりあえず全部装備した。

 しっくりきてしまうのが勇者としてもうダメな気がしてきた。

 勇者引退して兵士になった方がいい?


 腰の鞄に前タゴスから教わった軽い遠征用の必要品を入れ、脚の鞄に短刀と布に包んだ氷雹石と撃炎石。

 それから胸ポケットにスマホ、腰ベルトに使いなれた木剣を差す。

 鏡で全チェックした後に思った。うん。これ勇者じゃねぇ。完全に普通の兵士見習いだ。


 準備が終わったところでサコネが丁寧に漫画を棚に置くと立ち上がった。


「私ちょっと用あるから、また後で」


 じゃ、と片手をあげてサコネが魔法で消えた。

 自由人過ぎて羨ましい。


 コンコンと、サコネが消えると同時にタイミング良く扉がノックされる。

 一応雨避けの上着も持ってから扉を開けると先程とは違うメイドが一礼をした。


「ライハ様。お迎えにあがりました」

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